国内

「この世に障害者という人種はいない」 ホンダ子会社の理念

「ホンダ太陽」では障害者、健常者という意識すらない

 民間企業で働く障害者は約47万4000人(2016年6月)。13年連続で過去最高を更新しているが、企業が義務付けられている雇用割合の2.0%を達成している企業は全体の半数に満たない。そんな中、36年前から障害者雇用を主軸としている企業がある。大手自動車メーカー、ホンダの特例子会社「ホンダ太陽」と本田技術研究所の特例子会社「ホンダR&D太陽」だ。

 ホンダ太陽では車やバイクの部品を生産。障害者の雇用率は51.9%で、健常者と作業台を並べて組み立てや品質管理を行う。一方、ホンダR&D太陽の障害者雇用率は84.6%。最新のCAD技術を駆使した機械設計などデスクワークがメーンで、福祉機器や車、バイクの汎用製品の研究開発を行う。

◆“健常者”“障害者”の意識すらないでしょう

 大分県速見郡日出町。豊かな自然に囲まれた広大な敷地に、ホンダ太陽・ホンダR&D太陽の工場はある。ここでホンダ太陽は正・嘱託社員合わせて計198名/うち障害者(重度・軽度・知的・精神)は97名、ホンダR&D太陽は計52名/うち障害者は44名が働く。

 建物内に入ると、広々とした通路を車いすのスタッフと歩行スタッフが躊躇なく行き交い、私たちに「こんにちは!」と声をかけ、通り過ぎる。

「ここでは障害者は特別扱いされません。給与形態も同じですし、自分のことは自分でやるのが基本。助けを求められないかぎり、障害者だからといって手を貸すことはまず、ないですね」

 そう説明するのはホンダ太陽の総務課課長でジョブ・コンダクターの直野敬史さん。「おそらく“健常者”“障害者”という意識すらないでしょう」と付け加えた。

 昼休みを告げるベルが鳴った。私たちも社員食堂で昼食をいただくことになり、これまた広々とした食堂へ。食事の受け取り口からトレイの返却口に至るまで、すべての動線が車いす目線で設計してある。トレイをひざに置いて移動するのになんの造作もないし、多少動作に時間がかかっても、誰も慌てないしイラつきもしない。もはや、太陽が燦々と差し込む明るい食堂のテーブルにつけば、健常者と障害者の見分けすらつかない。

 障害者の自立、健常者との連帯、障害の有無に関係なく作業ができる環境の整備…。まさに、厚生労働省が理想とする企業の労働形態が、ごく自然に目前にあった。

◆「太陽の家」とホンダ創業者・本田宗一郎さんの出会い

 ホンダ太陽設立のきっかけとなったのは、社会福祉法人「太陽の家」である。「障害をもつ人の本当の幸せは、残存機能を活用して生産活動に参加し、社会人として健常者とともに生きることにある」と提唱した整形外科医・中村裕博士が、1965年に障害者が働きながら暮らせる施設として設立した。

 1978年、ソニーの創業者、井深大さんの紹介でホンダの創業者、本田宗一郎さんが「太陽の家」を訪れた。中村博士の案内で作業所を見て歩いた本田さんは、ホンダ太陽の設立を決意する。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
鳥取の美少女として注目され、高校時代にグラビアデビューを果たした白濱美兎
【名づけ親は地元新聞社】「全鳥取県民の妹」と呼ばれるグラドル白濱美兎 あふれ出る地元愛と東京で気づいた「県民性の違い」
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を9月に上梓したルポライターの松本祐貴氏
『ルポ失踪』著者が明かす「失踪」に魅力を感じた理由 取材を通じて「人生をやり直そうとするエネルギーのすごさに驚かされた」と語る 辛い時は「逃げることも選択肢」と説く
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン