「運動会のときによく作ったわね。Nちゃんがおいしいと食べてくれるとうれしい。少しでも役に立てたと思うと年寄りはうれしいのよ」
と、いつにも増して饒舌だ。たぶんこの日の体験はすぐに忘れてしまうだろう。でもまた来るたびに同じ興奮と喜びが得られ、母の失くしたと思われた機能を引き出して維持してくれそうだ。
◆懐かしい味、新しい味。認知症には刺激が有効
作業療法としての料理がコンセプトのデイサービスは業界初。『なないろクッキングスタジオ』を経営するユニマットリタイアメント・コミュニティNANAIRO事業部部長の神永美佐子さんに聞いた。
「2年前、目黒区自由が丘の1号店開設時には、多くのご家族やケアマネジャーのかたがたから、“認知症なのに料理などできるのか”と、心配の声が上がりました。でも調理作業には機能が落ちてもできることは何かしらあります。参加者全員が役割を持ち、協力することで一体感が生まれます。会話が弾み、いいにおいがしてきて唾液もよく出る。自然にお腹が空き、食べる量も増えます。
車いすや麻痺のあるかたなども参加されますが、“料理”という目的がある作業では自然と背筋が伸び、手が動くのです。親御さんが立って、手際よく作業する姿を見て、驚かれるご家族も多いですよ」
メニューはいわゆる高齢者向けではなく、介護・看護・調理のスタッフと管理栄養士がアイディアを出し合う。
「基本は旬の食材を生かすこと。回想療法として懐かしい家庭料理も作りますが、アサイーやロコモコなど話題の食材や料理も取り入れます。“今、若い人たちの間で流行っているんですよ”などというタイムリーな刺激が、認知症などには効果的なのです」(神永さん)
今後は都心部から全国へ展開予定だという。
※女性セブン2017年9月14日号