中でも、常に母親集団の先頭を歩き、リーダー的存在だったのが、横浜高校の増田珠(しゅう)の母、美穂さんだ。予選リーグのある日の試合後に声をかけたら、「今日は“ママたちの宴”がございまして(笑い)」と、一度は軽快にかわされてしまった。
キューバの練習風景を眺めていた日には、左足と右足で違う色のストッキングを穿いているキューバ選手を見つけるや、「斬新ね。清宮君には(ユニフォームの着こなしで)オールドスタイルを貫いてほしいわ。だって日本のベーブ・ルースなんだから」とママたちの前で独特な自説を展開していた。
増田は名門・横浜高校で1年生の夏からレギュラーを獲得した、打って走って、守れる外野手だ。今秋のドラフト上位候補のひとりでもある。
どちらかといえばクールな野球エリートが集まっている印象の強い同校にあって、プレー中に笑顔を絶やさない増田の天真爛漫なプレースタイルは、この母の血を継いでいるのだろう。言葉のセンスが何とも絶妙で、美穂さんの仕事が地元・長崎の情報誌などに寄稿するライター業だと聞いて、なるほどと得心した。
◆「息子のことが大好きなので…」
しかし、母は絶口調でも、W杯における増田のバットは湿っていた。初戦のメキシコ戦、第2戦のアメリカ戦でヒットが出ず、その後はスタメン落ち。4戦を終えて9打数無安打だった。9月5日の予選リーグ最終戦の南アフリカ戦では、あれだけテンションの高かった美穂さんがパーカーのフードを目深に被り、息子が打席に立てば手を組んで静かに祈りを捧げていた。