そして待望の初ヒットが3回に飛び出す。叫び声を上げた美穂さんは、周りに座っていたママたちから握手攻めに遭っていた。
「彼の野球人生でこれほどヒットが出なかったことってないと思うんです。本人が一番苦しんでいましたから、なんとかチームのお役に立てて良かった……」
改めて取材に応じてくれた美穂さんは興奮さめやらぬ様子だった。
長崎出身で一人っ子の増田は、小学生の頃はソフトボール、中学に入って硬式野球に転向した。
「チームを選ぶ時も、練習を見学に行って、指導者の方や先輩たちと話してみて、高校の進学先の選択肢が広そうなチームを自分で選んだ。その頃から横浜高校に行きたいと。親である私は行けるわけがないと思っていたんですが……」
中学3年になる春の全国大会に出場した際のプレーを横浜高校関係者が見て、入学が決まった。増田はその年、メキシコで開催されたU-15の日本代表にも選出された。その時のメンバーで、今回のU-18にも選ばれた選手は増田だけだ。
「これまでの進路は、すべて息子自身が決めてきました。息子の選択が間違ったことはありませんし、一番正しい道を選んでいる。私たちが意見することはありません。LINEを送るとどうしても長文になってしまう。息子のことが大好きなので、いずれ息子の本を書いてみたい(笑い)」
増田は大会終了後にプロ志望届を提出する見込みだ。
●文/柳川悠二(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2017年9月22日号