電動化宣言をしているボルボだが…(V60)


 排ガスレベルが高く、公害の発生源になるようでは、もちろん話にならない。しかし、ディーゼルには依然としてメリットもある。低CO2(二酸化炭素)だ。

「欧州では必ずしもディーゼルを廃止すべきという声ばかりではない。もともとこれまで欧州がディーゼルを押してきたのは、低CO2のためだった。ディーゼルは作動原理的に、ガソリン車に比べて格段に熱効率が高いうえ、幅広い運転領域でその効率の高さが維持されるため、CO2排出量削減という観点では有用であるのは事実だ。

 サイレントマジョリティの一番の要求は、クリーンなディーゼルを作ってくれということだろう。欧州メーカーはこれまでディーゼルを推奨してきた以上、それをなかったことにするのではなく、そのニーズに応える責務があると思う」(前出の日系メーカー関係者)

 実際、ディーゼルの熱効率の高さは、自動車開発のエンジニアにとっては非常に魅力的なものだ。

 トヨタ自動車は今年発売した中型セダン「カムリ」のアメリカ仕様車に、最高熱効率を非ハイブリッド用エンジンとしては量産車トップの40%に引き上げた新型エンジンを搭載した。そのエンジニアをして、「ディーゼルはやはりディーゼル。われわれは長期的にガソリンで熱効率50%を目指しますが、ディーゼルとの効率の差が埋まるのはまだまだ先」と言う。

 トヨタと資本提携に踏み切ったマツダは、ガソリンエンジンの効率を劇的に向上させる自己圧縮着火(HCCI)エンジン「スカイアクティブX」を2019年に投入すると宣言したが、それで「効率は現行のスカイアクティブD(ディーゼル)と同等」という。それが完成してもディーゼルの開発も進める。「ディーゼルのほうも今後、さらに効率は上がる」(マツダ関係者)からだ。

 ディーゼルスキャンダルでディーゼルすべてが害悪視されているが、マツダやドイツのBMW、フォード、ホンダなど、お咎めなしのメーカーも存在する。これらのメーカーのディーゼルも今後、さらに排ガスレベルは低減させるべきではあるが、規制逃れをやったメーカーのために一律でディーゼルを禁止するというのは乱暴なやり方だ。

 欧州の自動車業界で圧倒的な発言力を持っているのは、最大のスキャンダルの主であったフォルクスワーゲンだが、今、彼らはエコロジストを抱き込みながら電動化に向かっている。欧州委員会やブレグジットの渦中にあるイギリスの電動化への傾倒がその影響を受けてのものというわけではなかろうが、CO2排出量削減を叫びながらディーゼルを排除しようというのは少々矛盾した態度ともいえる。

 筆者はいくつかのディーゼル車で、東京~鹿児島間を長距離ドライブしてみたことがあるが、少なくとも低CO2という点で優れていることは疑いの余地がない。

 たとえばマツダのコンパクトカー「デミオ」のディーゼル車は、エコランをまったくやらずとも東京~鹿児島間を27km/Lの燃費で走りきった。ディーゼル燃料はガソリンに対して同じ体積でも1割強、CO2の出る量が多いのだが、それを勘案しても優秀な数値だ。

 ボルボのステーションワゴン「V60」は、1.7トンの車重を抱えつつ、東京~鹿児島を無給油で走った。メルセデス・ベンツの大型SUV「GLS」は、2.6トンの巨体でありながら燃費は12km/L台。ガソリンエンジンと比較すれば、およそ2倍に相当する実走行燃費である。

 3車に共通しているのは、ポテンシャルはもっと上であろうということ。ディーゼル車には健康被害の原因物質とされている微粒子を集塵して燃やすフィルターが装着されており、一定距離を走ると燃料を余分に噴射してそれらを燃やすシステムになっている。

 前述のデミオの場合、フィルターの処理を行っていない区間の燃費はトータル燃費よりはるに良好で、とくにおとなしめに走った区間では40km/Lに達するほどだった。現在の技術ではフィルターの処理に結構な量の燃料を使うのだが、その消費量は技術革新で今後、減っていくものと考えられている。

 極端な省エネ走行は別として、運転の仕方で燃費がそれほど大きく変わらないのもディーゼルの良いところだ。ディーゼルはガソリンに比べて効率の良い範囲が格段に広いためだ。今日のディーゼル車の多くは高出力エンジンを積んでいるが、その性能を存分に味わっても燃費の落ち幅が小さくてすむのはユーザーにとっては嬉しいところだ。

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