そのディーゼルの逆風になっているのは、ひとえに排ガス。なかでも光化学スモッグの原因物質とされるNOx(窒素酸化物)のレベルの高さだ。これはディーゼルスキャンダルのネタにもなった、非常に厄介な物質なのだが、今日の技術が限界というわけではない。
ホンダは2006年、アメリカの排ガス規制でガソリンと同じ「Tier2BIN5」をクリアできることを謳った排ガス浄化装置の技術発表を行った。エネルギー危機が叫ばれていた当時のことでもあり、その技術は大いにもてはやされたのだが、これに反応したのは日産自動車。うちだってもっとすごいことができると、台上テストではあったが、ガソリンのスーパークリーンレベルと同じ「Tier2BIN2」をクリアしてみせた。
その後、マツダがエンジンの燃焼を徹底的にコントロールしてNOxの生成量を減らすというアプローチを見せたが、今よりディーゼル技術がずっと甘い時代から、排ガスを浄化する方法自体は存在したのだ。
方法はわかっていたが、問題は処理装置のコストの高さだった。「当時の技術では理想的な性能の浄化装置を作るとディーゼル車を作る意味がなくなるくらい高い」と、その日産関係者は語っていた。そのコストを下げるのはメーカー間の開発競争であるはずだったのだが、「規制の抜け穴探しが横行したことで、技術者の思惑どおりにはコストダウンが進まなかった」(日系メーカーのエンジニア)という。
ディーゼルの低CO2という特性が再び脚光を浴びるかどうかは、ひとえに排出ガス低減にかかっている。本来ならディーゼルスキャンダルが起きた今、仕切りなおしでメーカー間の排ガス浄化に関する技術開発競争が起きていいはずなのだが、欧州がその競争から逃げ腰、あるいはディーゼル排除というムーブメントが今後も続くと、技術進化やコストダウンは止まってしまうだろう。
「我々は批判のターゲットにならなかったが、ビジネス面ではディーゼルスキャンダルの影響は少なからず受けた」
と、マツダ関係者は振り返る。そのマツダは年度内にアメリカでディーゼル車の販売に乗り出す。
アメリカの排ガス規制は新車時と長期使用時の2種類があり、後者については従来技術でクリアできていたが、走行距離数千マイル時点の前者を日本、欧州と同じ仕様でクリアできなかったため、追加で尿素SCRというNOx浄化装置を追加してのデビューだ。
アメリカ市場で乗用ディーゼルがどのように受け取られるかは興味深いが、技術的な問題がなく、顧客からも好意的に受け入れられるようであれば、ディーゼル=悪という将来の技術進化を無視した決め付けに楔を打つことができるかもしれない。そのゆくえに注目したいところである。
■撮影/井元康一郎