ここまで西郷を擁護したのは、やはり福澤の存在証明=アイデンティティでもある“侍の気概”の表れからです。福澤は開明的なイメージが強い人物ですが、そもそも1835(天保5)年に生まれた侍の育ち。明治維新最大の功労者は侍だと見なしており、その代表格である西郷は、福澤にとって感情的になってしまう存在なのです。

◆西郷が抱えた「矛盾」

 福澤は言説をもって明治の代をリードした人物。実際に戦場へ赴いたり、政治を行ったりはしていません。一方の西郷は、体を張って多くの偉業を成し遂げました。「廃藩置県」や「地租改正」など、国を挙げての大掛かりな制度の導入に成功し、「天皇制の成立」という、その時代において最大の改革を、自ら戦場に立って勝ち取っています。

 それ故、福澤は西郷を「英雄だ」と大きく称えました。西郷は新政府の中心的な存在であり、決して“旧弊(古いシステム)に縛られていた人”ではないのです。

 しかし、西郷には「矛盾」もありました。士族が長年抱えていた不満を、深い情を持って受け止めていたのです。西郷は理屈や論理だけで動くのではなく、情を含めて士族の思いを全部飲み込み、最後は実際に戦った。その時々で意見を変えるご都合主義ではなく、断固としてやり抜く潔さは、まさに侍。西郷という人物そのものの生き方を福澤は高く評価し、共感していたのでしょう。

 一方で明治政府を痛烈に批判していますが、決して「反政府」という立場ではありません。欧米のように民主主義的な国家へと変貌を遂げる途中にあった日本にとって、何が必要なのかを提案し続け、常に政府を監視していたのです。現代においても、マスコミが権力を監視する機能を持っていますが、当時の福澤は“一人大マスコミ状態”と言えます。『丁丑公論』には、西南戦争は日本の文明開化を遅らせたため、結果的に害だったと指摘する記述もある。

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