最後に拙著『福岡伸一、西田哲学を読む 生命をめぐる思索の旅 動的平衡と絶対矛盾的自己同一』(池田善昭・福岡伸一著、明石書店)も紹介させていただきたい。生物学の真髄は細部に宿ると述べたものの、生物学の究極の問いは、生命とは何か、という大疑問に答えること。しかも、DNAを持つとか細胞からできているというふうに、生命の特性を列記するのではなく、生命の内部に降り立って、生命のありさまそのものを定義しようという試みだ。
本書は、独自の哲学を打ち立てた西田幾多郎(1870~1945。『善の研究』などで知られる哲学者)の生命観を手がかりにしながら、私自身の生命論である動的平衡(*)の理論を数年がかりで深化した。
(*合成と分解、酸化と還元、切断と結合など相矛盾する逆現象が絶えず繰り返されることによって、秩序が維持され、更新されている状況を示す福岡伸一のキーワード。)
●生物学者。1959年東京都生まれ。京都大学卒業。青山学院大学教授。『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、サントリー学芸賞)を初め、生命とは何かを「動的平衡論」から問う著書多数。近著に『新版 動的平衡』(小学館新書)。
※SAPIO2017年10月号