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2017.10.06 07:00  SAPIO

生物学者・福岡伸一氏が選ぶ文化系のための生命科学の6冊

 しかし近年、私が読んだ中で最高の奇書(と呼ぶにはその真面目な筆致にいささか失礼だが)は、『糖尿病とウジ虫治療マゴットセラピーとは何か』(岡田匡著、岩波科学ライブラリー)。重度の糖尿病患者の中には足が化膿し、切断を余儀なくされるケースがある。なんとか切断せずに助けられないか。しかし治療は難しく、化膿はなかなか治らない。悪化する場合もしばしば。

 そこに救世主が現れた。なんとウジ虫。もぞもぞ蠢くハエの幼虫である。ホラー映画ではない。ウジ虫(治療用に無菌養殖されたもの)を患部に乗せると、彼らは柔らかい化膿部分だけをきれいに食べてくれる。すると病巣は瞬く間に回復に向かうというのだ。

 こんな奇想天外なウジ虫の作用がどのように発見されたのか。いかにして治療法として確立されたのか。世評と戦いながら研究を進めた医学者たちの人物伝、そして著者を初めとした日本における普及活動に尽力している人々の奮闘努力。掛け値なく面白い。科学を身近なものにするためのコツは、科学そのものを勉強するよりも、科学の成り立ち、すなわち科学史を学ぶことである。本書はその典型例のような快著なのだ。

 岩波以外で近年の好著を挙げておくと、ひとつは『ウニはすごい  バッタもすごい』(本川達雄著、中公新書)。かつて動物のサイズという視点から生命現象を考えた『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』で一世を風靡した生物学者・本川達雄先生の最新作で、生物の形態とその合目的性を余すところなく解説している。単なるモノ知りと教養の差がどこにあるのか教えてくれる。

 もうひとつは、『ゲノム編集とは何か「DNAのメス」クリスパーの衝撃』(小林雅一著、講談社現代新書)。世界中の分子生物学者を熱狂させている画期的な最先端バイオテクノロジーが、遺伝子情報を人為的に改変する「ゲノム編集」。将来、ここからノーベル賞受賞者が出ることは間違いないので、今から知っておくと自慢できる。

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