まず、今住んでいる住宅を売却するためには、先に引越しをしてしまった方が高値で売却しやすい。だから、今住んでいる住宅を売却する際の「引渡し」の条件を「要相談」ではなく「即可」にしてしまう。

「それではローンと家賃の二重負担になるではないか」

 普通はそう考えて居住しながらの売却を考える人が多い。しかし、例えばマンションの場合だと「要相談」と「即可」では売却額が5%程度ちがう。もちろん「即可」の方が高値で、しかも早く売れると考えてよい。

 引越し先の賃貸住宅は十分に吟味して決めたいところだ。しかし今の「高止まり」状態を逃さないためにはスピードが肝心。1、2年は家賃がリーズナブルで初期費用がかからない公営住宅に住むのも有力な選択肢だ。立地を多少妥協すれば、最初の数か月は家賃を払わなくてもよいフリーレントを条件にする物件も選択肢に上がってくる。

 賃貸というのは、基本的に「仮の住まい」だ。取りあえず公営住宅に住むのなら、長くても2年くらいのつもりで次の住まいを探せばよい。

 普通の賃貸マンションを借りるのなら、「分譲タイプ」を選択すべきだ。賃貸募集を行っているマンションには最初から賃貸向けに作られた物件と、そもそも分譲でありながら賃貸に出されているものがある。賃貸向けは設計や仕様がチープ。それに対して分譲用は永住に耐えるようにしっかりと作られている。

 しかし、賃貸市場は前述のように「借り手市場」である。「貸し手」側は激しい競争にさらされているので、分譲タイプだからといって賃貸専用よりも家賃を高くは設定できていない。逆に言えば、借り手の選別眼が甘いので、賃貸マンションのオーナーが低仕様な物件で有利に賃貸経営している状態。一方、借り手からすれば同じ家賃で分譲と賃貸から選べる。当然、品質の高い分譲タイプを選ぶべきだ。

 また、「借り手市場」であることの優位性は存分に活かすべきだ。具体的には家賃は減額交渉できる場合がほとんど。あるいは「礼金をゼロにしてください」くらいのことは要求すべきだろう。特に、大手企業に勤務しているなど、「家賃を滞納するリスクが少ない」属性を備えているのなら、かなり強気でもいい。

 自営業者なら、「事務所」や「仕事場」で税務申告する場合は、1年間の家賃前納分がその年の経費に算入できる。だから「1年分前払いするから安くしてください」という交渉も可能だ。ただし、この場合は途中で退去しても前納分は戻ってこないし、翌年も1年分を前納しなければならない。

 2年ごとに払うことが習慣となっている更新料は、交渉次第でゼロにできる。最高裁の判決は更新料が「有効」と「無効」に分かれているが、多くのオーナーは「いずれ更新料は取れなくなる」ということを覚悟している。だから「更新料をゼロにしてください」という交渉は容易になりつつある。

「いつも新築に住みたい」

 こういう要求も容易にかなえられるのが賃貸生活だ。分譲住宅を購入してしまうと、多くの人は「ローンを払い終わるまでは」という気持ちで日々老朽化する住宅に住み続ける。しかし、賃貸暮らしなら「ここにも飽きたなあ」と思えば、気軽に引越しできる。新たに借りる場合に、新築に限定して探せばよいのだ。うまく見つかると、また新築での暮らしが始まる。そういう方式で4年から6年ごとに新築住宅に住み替えている家族もいる。

 賃貸市場では「新築だから」ということで家賃が1割も高くなることはない。せいぜい5%かそれ未満。永遠と新築に住み替え続けることだって、理論的には可能。

 一方、マンションでも築40年や50年になると家賃は相場よりも下がる。逆に、そういう住まいを選んで借りる選択肢もある。特に都心立地の老朽賃貸の場合、住んでいるうちに「建替えるので退去してください」という要請が出てくる可能性もある。そういう場合、家賃の1年から2年分の「立ち退き料」がもらえることになる。

 持ち家を売却して賃貸に住む最大のメリットは「どこに住むか」という居住の自由が得られることだ。「鎌倉の海のそばに4年だけ住んでみよう」とか「狭いけれど表参道のマンションに2年だけ住む」という短期限定の選択肢も可能だ。

 日本人はそもそも農耕民族であり、定着志向が強い。しかし、人間の生き方は定住型だけではない。いろいろなところに住み、様々な生活風景に接するというのも人生の楽しみのひとつだ。局地バブルで今の住まいを高く売れる今は、ライフスタイルを「移動型」に変える大きなチャンスかもしれない。

■文/榊淳司(住宅ジャーナリスト)

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