夫婦間でどちらかががんを患ったことを契機に離婚する夫婦が増えているという。がん支援者の自立を支援する「認定NPO法人オレンジティ」理事長で、がんサバイバーでもある河村裕美さんが指摘する。
「がん離婚の理由で多いのは夫婦の性生活がなくなったことによる夫の浮気です。とくに子宮頸がんや卵巣がんの患者は20~30代で性交渉が活発な時期の女性が多く、がんになると病気前のような性交渉ができなくなる。妻とセックスできなくなった夫が浮気に走り、最終的に離婚にいたるケースもあります。また、性交渉を何度も拒まれた男性がDVをするようになり、夫婦関係が壊れるケースもあります」
夫婦間ではなく、その親が出てきてこじれる事例もある。離婚カウンセラーの岡野あつこさんが語る。
「卵巣がんになった30代妻の病室に義理の母が来て、『もう息子とは別れた方がいい』と忠告されたという相談が実際にありました。世代的にも“子供が産めない嫁”という事実が受け入れられないんですね。息子には健康な嫁を、という、ある種の親心なのですが、裏返せば世間体を気にしているだけともいえます」
がん離婚のもう1つの大きな要因は「お金の問題」だ。『娘はまだ6歳、妻が乳がんになった』(プレジデント社刊)の著者である、フリーライターの桃山透さんが語る。
「妻の乳がんが発覚したのは2011年5月。告知を聞いた時は頭の中が真っ白になり、しばらく記憶がありません。一人娘が6才になったばかりで“これからどうなるんだ”と不安要素ばかりが頭に浮かび、あっという間に円形脱毛症になりました」
妻は手術で右乳房を全摘出し、最悪の事態は免れたはずだったが、その後すぐ、肝臓への転移が判明。夫婦にとって「死刑宣告」に等しかった。がんの闘病は「お金があって初めてスタートラインに立てる」と桃山さんはつぶやく。
「ただでさえ妻が大変なのにお金の心配までさせるのは本当につらい。それでもぼくがメーンにしていた仕事が飛んで年収が300万円に満たなくなり、治療費が払えなくなった時は離婚を考えました。妻に生活保護を受けさせて、ぼくが稼いだお金をこっそり渡す方がいいと思ったんです」
それでも妻や娘の行く末を考えて離婚を踏みとどまった桃山さんだが、がん離婚する夫の気持ちが「理解できる」と話す。