量より質はこうした体験型と称するコンテンツだけではない。メーカーのコンセプトカーや技術展示もあるので、そこに期待したくなるところだ。
リーマンショック以降、毎回のようにTMSは日本の技術の発信をアピールしてきた。ところが、実際に自動車メーカーや部品メーカーの展示を見ると、「クルマがこういう風に変わっていくのか。楽しみになった」と本当に来場者を驚かせるようなモデルや技術の提案はほとんどなかった。
グローバル化にともない、日本メーカーも重要なモデルや技術の発表はほとんど海外で行っている。有体に言えば、自動車メーカーの東京モーターショー離れなのだ。
「2013年、パーソナルモビリティEVの展示、体験コーナーを各社共同でやったことがありました。社会のニーズがあると言われていたからです。しかし、現実を見ると来場者はほとんど関心を示さなかった。
社会がどう変わっていくべきだという綺麗事と個人が心の中に抱いている欲望は全然違う。東京モーターショーは前者の綺麗事に寄りすぎ、潜在的な願望を満たすという目線がなかった。正直、お役人がやる展示会と大差ない」(別の国内メーカー関係者)
残るはエモーショナル、すなわちユーザーのクルマへの情熱をかきたてるような展示。もともとユーザーショーとしての色彩が濃いTMSにとってはもっとも重要なファクターだ。
前回の2015年ショーはコンテンツ不足で入場者数が壊滅的に減るのではないかと言われていたが、マツダが「RX-VISION」というデザインコンセプトを出し、それを見ようと来場者が殺到。「この1台があったから、来場者が1割減ですんだようなもの」と、ライバルメーカーをして言わしめたほど。本当に本気を出したものを各社が出せば、集客効果は出せるのだ。
しかし、それも1つや2つ目玉があるだけで、その他はありきたりというのではパワー不足だ。モーターショーは主役、準主役、脇役のどれもが重要なのだ。
モーターショー会場に花を添える海外勢はすでにGM、フォード、フィアット・クライスラー、ジャガー・ランドローバーなどが不参加。ロールスロイス、フェラーリ、ランボルギーニなどのドリームカー、テスラモーターズをはじめとするEVベンチャーなども姿を見せない。日本では比較的セールスが好調とされるドイツ勢なども、実は今回限りになる可能性があると噂されている。
彼等がいなくなったぶん、日本勢は余計に頑張らなければいけない。それも、日本の来場客のために、だ。そのためにはメーカーがTMSを自社のすごさのPRの場にすることばかりに気をとられず、大人1枚1800円ものチケット代を支払ってやってくる来場者を心から楽しませるエンターテイナー性を取り戻さなければいけない。
すでに完成車メーカーや部品メーカーから、出展内容に関する情報が続々と出てきている。それらがエンターテインメントのコンテンツとして顧客に受け入れられるようなものか否か。今のところ、チケットの事前販売は前回を上回っているという。来場者数のスコアや感想が楽しみなところである。
■文/井元康一郎(自動車ジャーナリスト)