山口氏が「眼力が強い」と語る毘沙門天立像(画:山口晃)
山下:正面からではなく、こうして横顔も拝めるのが普段にはない愉しみですね。ガラスに遮られることなく、近寄って、お寺とはひと味違った新しい発見がある。
山口:同じく願成就院の毘沙門天立像は眼力が強い。
山下:水晶を眼にはめ込んで着色する玉眼は、輝いて生き生きとした印象を受けます。山口君はこの像のような装束が好みだよね。
山口:キュッと締まった凜々しい装束ですね。描くのが大変なのですが、彫るのはもっと大変でしょう。胸の中央のリングから左右に通っている帯の布に皺が寄っていて、細部まで彫り込んでいる。
山下:東京国立博物館学芸企画部の浅見龍介企画課長にうかがったところ、これは革紐だそうです。
山口:布が2枚重なったように彫るのではなく、革がギュッと寄った皺ということですか! 像の背部へ回ると本当ですね、1本の紐が通っている。ぐるりと全方位から拝観できるので、成り立ちがよくわかって発見があります。
山下:革紐を組み合わせてリアルさを追求するような表現は、運慶以外に見られない。脇にまわると高い位置からも低い位置からも帯に縛られて、下腹がポコッとはみ出していますね。背筋もすごく立派で全体に筋肉質。この肉感的な表現も、運慶ならではです。