国内

碁・井山裕太七冠 常識破りの師弟関係が奇跡の偉業を生んだ

井山裕太七冠(左)と師匠の石井邦生九段(2015年名人就位式)

 囲碁の七大タイトル独占の偉業を、棋士の井山裕太氏(28)が再び果たした。井山七冠を間近で取材し続けている名人戦観戦記者の内藤由起子さんが、井山七冠の傑出した才能がどのように開花されたのか、強さの秘密を明かす。

 * * *
 昨年4月に、囲碁界初の七大タイトル(棋聖、名人、本因坊、王座、天元、碁聖、十段)同時保持を井山さんは達成した。しかし11月に「名人」を失い、六冠に後退。それから1年。6タイトルをすべて防衛しつつ、名人への挑戦権を勝ち取り、8月末から高尾紳路名人とのリターンマッチに臨んでいた。

 10月17日、4勝1敗で名人位を奪還。前人未踏の七冠返り咲きを果たした。2度目の七大タイトル制覇は、囲碁界はもちろん、将棋界を含めても初の快挙で、奇跡ともいえよう。

 去年の獲得賞金は1億3494万円。12歳でプロ入りを決めてから、16年間で獲得した賞金は10億円を越すという天才を生んだ鍵は、従来の囲碁界の常識を破る発想と育成法にあった。

 井山七冠の碁の特徴は、常識にとらわれない自由な発想をすることだ。

 碁盤には打つところが361か所(19路×19路)ある。その変化はゼロが360個並ぶ(10の360乗)ほど多くのパターンがあり、奥深い世界が広がる。碁が強い人ほど、その無限の可能性の中からよい手の候補を絞る能力があるものの、これまでの経験や常識に沿った「普通の」手を選ぶことが多い。井山七冠は、常識ではあり得ない手の中から絶好手を見つける能力がずば抜けているといえる。

 その能力が培われたのは、師匠の石井邦生九段の囲碁界の慣習を破る育成方法によるところが大きい。

 これまで名人となった大棋士のほとんどが、小学生ほどの年齢で親元を離れ、師匠宅で住み込む「内弟子」を経験している。同じ内弟子のライバルどうしで切磋琢磨し、碁漬けの生活を送って修業するのだ。

 師匠に打った碁を見てもらい、アドバイスを受けることはあっても、対局することはほとんどない。入門を許可するための1局と、プロ入りを断念し田舎に帰るときの記念の1局だけ師匠と手合わせてもらえるというのが、従来からの囲碁界の慣例だった。

 5歳のときテレビゲームで碁を覚えた井山少年は、たった1年で三段になった。恐ろしいまでのスピード上達だ。小学1年で石井邦生九段の弟子となった。石井九段は「井山の才能に惚れたのです」。50歳を過ぎ、これからはのんびりやっていこうと思った矢先のことだった。

 内弟子にするのが最善の策と石井九段も考えたが、一人っ子の井山少年を親元から引き離すのは無理だと思った。かといって家は電車で2時間半も離れていて、通ってきてもらうのは時間がもったいない。

 そこで当時始まったばかりの電話回線を使う初期のネットシステムで打つことを思いついた。月に2、3回直接会って打ったのを含め、なんと、師弟で1000局以上は対局したという。破格の対局の多さは、まさに囲碁界の慣例を破った形だった。

 これだけ打って指導したのは、石井九段の信念による。

関連キーワード

関連記事

トピックス

2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「横たわる少女の横で四つん這いに…」アンドリュー元王子、衝撃画像が公開に…エプスタインと夫婦でズブズブで「英王室から追放しろ」 
NEWSポストセブン
皮膚科の医師だった佐藤容疑者
収賄容疑で逮捕された東大教授の接待現場 “普段は仏頂面”な医学界の権威が見せた二面性「年甲斐もない異様なはしゃぎ方」
女性セブン
「ヤンキー先生」として注目を集めた元文部科学副大臣の義家弘介氏(EPA=時事)
《変わり果てた姿になった「ヤンキー先生」》元文科副大臣・義家弘介氏、政界引退から1年で一体何が…衝撃の現在
NEWSポストセブン
学童クラブの宿泊行事中、男児にわいせつ行為をしたとして逮捕された保育士・木村正章容疑者(左:法人ホームページより。現在は削除済み)
《保護者と児童が証言》「”ジョーク”みたいな軽いノリで体を…」変態保育士“キムキム”こと木村正章容疑者が男子小学生にわいせつ疑い「変な話はいっぱいあったよ」
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏とエプスタイン元被告(時事通信フォト)
「13歳で拉致され、男たち3人に襲われた」「島から脱出する条件はあられもない姿を撮らせること」被害女性が必死に訴えていた“黙殺された証言”【エプスタイン文書300万ページ新たに公開】
NEWSポストセブン
「大谷ファミリー」の活動指針が徐々に明らかになりつつある
《家族でハワイに行ける成長ぶり》大谷翔平が長女をインスタに掲載する「価値観の変化」…真美子さんは「教育分野に興味」
NEWSポストセブン
吉村洋文氏(左)と藤田文武氏(右)と並んで秋葉原駅前で衆院選の第一声をあげる高市早苗首相(写真撮影:小川裕夫)
《問われる存在意義》衆院選で自民単独過半数なら維新はピンチ 定数削減実現は困難に、自民党内で「連立維持するのか」問題も浮上か
法定スピード以上の速度で突っ込んだ(時事通信)
《独自》内閣府公用車の9人死傷暴走事故 委託先は2年前にも永田町で公用車ひき逃げ死亡事故 運営会社と内閣府が「間違いございません」と事実関係を認める
NEWSポストセブン
「日本学術振興会賞」と「日本学士院学術奨励賞」の授賞式に出席された秋篠宮ご夫妻(2026年2月3日、撮影/JMPA)
《上品な艶がドレッシー》紀子さまの授賞式ファッション ライトブルーのセットアップで親しみやすさを演出、同系色のブローチも
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《司忍組長、84歳の誕生日会に密着》胡蝶蘭、鯛、枡酒にコンパニオンが大挙 警察、メディアが関心を寄せる「山口組重要文書」の存在
NEWSポストセブン
晩餐会での“少女漫画のようなエスコート”動画が話題に(提供:soya0801_mlb)
《独占入手》妻・真美子さんの手を優しく取って…大谷翔平、晩餐会での“少女漫画のようなエスコート”動画が話題に ファンに伝えた「ありがとう」
NEWSポストセブン
目撃者が語った“凄惨な事故現場”とは(左/時事通信フォト、右/共同通信)
「『死んじゃうよー』公用車の運転手がうめき声を…」「官僚2人は後ろでグッタリ」公用車が130キロで死傷事故、目撃者が語った“凄惨な事故現場”【高市首相、腹心の官僚】
NEWSポストセブン