もちろん粋歌の新作はOL落語だけではない。息子のバイトに母親が付いてくる『コンビニ参観』、元戦隊ヒーローたちのなれの果てを描く『ヒーロー』、東京に憧れる地方の高校生が主役の『すぶや』など爆笑系は数多く、ゴミ屋敷のお婆さんに役所の人間が息子になりすまして電話をかけて説得する『オレオレ』、新人研修でパン工場のラインに回されて不満たらたらだった「意識高い系」の新入社員がベテランのおばちゃんたちに感化されて成長していく『プロフェッショナル』といった心温まる人情噺もある。
そうした中から僕が選り抜きの3席を粋歌にリクエストした「広瀬和生セレクト 粋歌の新作ベストコレクション」を9月15日に開催した。1席目は爆笑系で、17年間ストーカーしていた男が相手の女性の前に現われて一方的に卒業を宣言する『卒業』。2席目は老老介護の問題を取り上げながらしみじみとした感動の余韻を残す人情噺系の名作『二人の秘密』、そして3席目にOL落語の決定版『影の人事課』。手前味噌だが、粋歌の新作の幅広い魅力が堪能できる会になったと思う。
粋歌の新作は、「女性が演じるからこそ面白い」ものばかり。女性であることをハンデではなく武器にした粋歌の存在は、落語という芸能の歴史において、大きな意味を持つ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『僕らの落語』など著書多数。
※週刊ポスト2017年11月3日号