両親と兄の要求に応えタカノリ(演・間宮祥太朗)は殺人を重ねる 映画『全員死刑』より
──暴力描写のあるアウトロー映画という文脈では『アウトレイジ』シリーズが現代を代表する作品として取り上げられることも多いですね。時代が近いそちらを参考にはされなかったのでしょうか?
小林:『アウトレイジ』などの諸作品は、かつての実録ヤクザ映画の更新ではなく、もう一回同じことをしている活動だと思うんですよ。その活動はあっていいことだと思いますし、すごく刺激も受けますが、あの先には何があったんだろうと考えるべきで、そのために原点となる『仁義なき戦い』を繰り返し観ました。そして上下関係、ヒエラルキーによってすり減らされる話は、過労死にも繋がることが見えてきました。
──近年、報道される機会が増えてきた不良ネットワークを利用した振り込め詐欺などの犯罪の構図をきくと、先輩の横暴な命令を言われるまま、ただ働きをする不良ヒエラルキーの末端の子たちによって実行されています。彼らは無報酬で労働を搾取されるだけのことも多く、真っ先に逮捕される。でもなぜか逃げ出さない彼らも、過労死に繋がる負のスパイラルに取り込まれているんですね。
小林:理不尽な圧というのは、不良の世界だけじゃないですよね。会社でも学校でも、国でも、いまは仕方がないと圧力をかけられて、納得していないのに無理な仕事をさせられたり、おかしな関係を押しつけられ、すり減らされています。何かに対して上下関係の力が働いて、そこから暴走が始まる。『全員死刑』のタカノリも、お前を頼りにしているんだぞと父から拳銃を握らされる。拳銃を握らされ、撃つことしか許されない。タカノリの好き勝手はどこにもない。両親と兄の要求はメチャクチャなのに、期待しているぞという暴力をふるわれ、それに応えるため凄く働いて死刑判決を受ける。よく働いた末の事実上の死、過労死ですよ。
──生きていくのが大変な世界ですね。
小林:自分のなかに権力みたいなもの、圧に対してのものすごい怒りがあるんです。お前のやりたいようにすればいいと口ではいいながら、結局誘導させられるのも圧力です。息苦しいですよね。その息苦しいモノに対して、笑い飛ばしちゃうようなエンターテインメントをと思って『全員死刑』を作りました。暴力の場面に遭遇したことがあまりない人からは、荒唐無稽に映るかもしれない。でも、本当にあった事件なんだという強度が作品の味方になると考えています。
●こばやし・ゆうき/1990年9月30日生まれ、静岡県富士宮市出身。東京デザイン専門学校グラフィックデザイン科卒業。『Super Tandem』(2014年)で第36回PFF入選、『NIGHT SAFARI』(2014年)でカナザワ映画祭グランプリ。『孤高の遠吠』(2015年)で第26回(2016)ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリ。2017年は『逆徒』、商業デビュー作品となる『全員死刑』(2017年11月18日公開)、さらにもう一作品の公開が控えている。取材に基づいたリアリティある暴力描写に注目が集まり、いまもっとも商業デビューを待たれていた若手監督のひとり。
◆取材・構成/横森綾