この事故以後、ホームからの転落防止に最も効果がある「ホームドア」の設置が唱えられ続けた。2011年1月にJR目白駅で視覚障害者がホームから落ち、電車にはねられて死亡した件をきっかけにさらに機運が高まり、国交省は「1日の利用者数が10万人以上の駅について、ホームドアを優先的に整備する」と宣言した。

 しかし、該当する全国260の駅のうち、ホームドアを設置したのは82件で、全体の3割にとどまる。

 2016年8月には、銀座線・青山一丁目駅のホームで盲導犬を連れていた品田直人さん(享年55)がホームから転落し、電車にはねられて亡くなった。青山一丁目駅の利用者は1日10万人以上だが、転落防止のホームドアは設置されていなかった。

 全線合わせて、1日平均328万人が乗り降りする渋谷駅でも、山手線、半蔵門線ともにホームドアは未設置のまま。前述した昨年の転落死亡者3人が利用していた駅にもホームドアはなかった。

 なぜホームドアの設置が進まないのか。鉄道の安全対策に詳しい関西大学社会安全学部教授の安部誠治さんは、「コストと技術がネック」と解説する。

「ホームドアの設置には、数億円から数十億円の巨額な費用がかかります。古いホームの場合はホームドアの重量に耐えられないので、大々的にホームを改装する必要があるためです。JRは特急や普通など電車によって停車するドアの位置が違うことも、設置にあたっての大きなネックとなっています」

 前述の青山一丁目駅は、ホームの柱が線路の直近に立っており、ホームドアを設置することが難しい。このように構造上、設置が難しい駅も多数ある。

◆視覚障害者の意見も取り入れてほしい

 地域によっては、人の背丈より高くて安全性も高い「スクリーンドア」や、横向きに張られたロープが上下に動く「昇降式ホーム柵」など、さまざまなタイプのホームドアが登場しているが、全国的な普及には至っていない。

 この状況を、当の視覚障害者はどう受け止めるのか。視覚障害者でパラリンピック・陸上競技の日本代表である高田千明さんが語る。

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