国内

視覚障害者の切なる思い、駅のホームドア設置が進まぬ理由

2013年にホームドアの設置が完了した山手線「目白駅」

 線路上にうずくまる男性に運転手が気づいたのは、100m手前の時点だった。キキーッ! 響きわたるけたたましい列車の急ブレーキ音。騒然となる駅構内。下りホームには、男性の持っていた白い杖が転がっていた。

 10月1日夜9時すぎ、大阪府高石市のJR富木(とのき)駅で、椋橋(くらはし)一芳さん(59才)が天王寺発和歌山行きの快速電車にはねられ、全身を強く打って死亡した。直前には白杖をつき、ふらつきながら歩く椋橋さんの姿が、ホームで目撃されている。

 椋橋さんは、全盲の視覚障害者だった。富木駅には点字ブロックこそあるものの、転落防止用の柵はなく、転落当時、ホームに駅員は1人もいなかった。目の見えない彼を救う「セーフティーネット」が、この駅には欠落していた。

 悲しい事故が一向になくならない。国土交通省によれば、視覚障害者が駅のホームから転落する事故は2010年以降年間およそ60~90件で推移している。2016年に起きた転落事故は69件で前年度の94件から減少したが、前年にゼロだった死亡者数は3人になった。

 視覚障害者にとって、駅のホームは極めて危険な場所である。日本盲人会連合が視覚障害者252人に行ったアンケート(2011年)によれば、駅のホームから「転落しそうになった」と答えた人は約60%に上り、実際に転落経験がある人は36.5%もいた。

 転落した視覚障害者が間一髪、救出された例もある。今年8月、京都市営地下鉄烏丸線北大路駅のホームから視覚障害者の男性が転落。その直後、近くにいた会社員の男性(29才)がとっさの判断で線路に飛び降り、ホーム上の客らと協力して転落した男性を救出した。

 今も人々の記憶に残るのは、2001年1月、JR新大久保駅のホームから転落した男性を助けようとして死亡した韓国人留学生の李・秀賢さん(享年26)と日本人カメラマンの男性(享年47)の一件だろう。自らの危険を顧みず、命を救助しようとした2人の勇気は日本社会に大きな衝撃を与え、その行動は大々的に称賛された。

 だが、これらは美談として語られるばかりで、転落問題の根本的な解決策は置き去りにされたままだ。

◆「片足のひざくらいまでズルッと落ちました」

関連キーワード

トピックス

林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
「パー子さんがいきなりドアをドンドンと…」“命からがら逃げてきた”林家ペー&パー子夫妻の隣人が明かす“緊迫の火災現場”「パー子さんはペーさんと救急車で運ばれた」
NEWSポストセブン
豊昇龍
5連勝した豊昇龍の横綱土俵入りに異変 三つ揃いの化粧まわしで太刀持ち・平戸海だけ揃っていなかった 「ゲン担ぎの世界だけにその日の結果が心配だった」と関係者
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン