それに照らし合わせると、必ずしも前年の優勝だけで計れるものでもないとも考えられ、下田の力の見せどころは幕下筆頭だった翌場所で全勝でなくていいからせめて四勝することだった。私は「結局弱かった」と吐き捨てることはできない。大相撲の奥深さ(訳のわからなさ、残酷さも含む)を教えてくれた大事な人だ、という思いが大きい。
しばらくして、十一年前に自身が優勝した大会で審判を務めた、と毎日新聞に語っていた。ちゃんこ番で鍛えた腕で毎朝弁当を作って勤務先に持っていっている、とも。料理が身に付いたのは相撲界で過ごした十年のおかげ、と感謝している様子がうかがえる。苦しみを経験し大人になった前向きな下田の人生には、まだ使っていない幸運の貯金がたんまりある。
※週刊ポスト2017年11月24日号