国内

「#自殺希望」が癒やしとなって生きられた女性の告白

「死にたい」とつぶやけなくなることの方が怖い

 座間9遺体事件では、被害に遭った女性たちのSNSでの「死にたい」というつぶやきに、白石隆浩容疑者がつけこんだことに注目が集まった。これを受け、再発防止を目的として政府がSNS、とくにツイッターの規制を検討していると報じられると、ネットでは「地下に潜るだけでかえって悪質化する」など反発が起きている。そして、「死にたい」とつぶやく当事者たちからも「癒やしの場所を奪わないで欲しい」という声があがっている。ライターの森鷹久氏が、SNSでの「#自殺希望」が癒やしとなっている現実を聞いた。

 * * *
 神奈川県座間市のアパートで男女9名の遺体が見つかった事件は、すべての被害者の身元が判明し、それぞれの足取りもなんとくではあるが、解明されつつある。とくに世間を驚かせているのは、容疑者の「楽して金が欲しかった」という短絡、そして身勝手すぎる供述と、被害者らが自殺を希望し、ツイッターで「死にたい」「一緒に死ぬ人を探している」という書き込みを繰り返していたという事実だ。

 ほとんどのマスコミが「被害者に自殺願望があった」と報じる一方で、容疑者は「被害者に本当に死にたい人はいなかった」と供述するなど、被害者の心情と被疑者の動機の矛盾が様々な議論のもととなっている。この事件をうけて、SNSへの監視を強化するといった政府の方針も発表されるなど、騒動は落ち着く気配を見せない。

 かつて「自殺希望」のSNSアカウントを複数所有し、実際に自殺未遂の経験もある会社員女性・益子さん(仮名・28歳)は、「#自殺希望」のつぶやきこそ、自身が生き抜くための手段であり、何より、日々の暮らしの中での「癒し」そのものだったと述懐する。

 ツイッターやインスタグラムなどのSNSでは、ハッシュタグ「#」にスペース(空き)なしで言葉を続けると、同じ言葉がついた「#」つきの投稿を参照できる機能がある。その機能を利用すると「#自殺希望」というタグがついたメッセージを簡単に一覧できるのだ。そこでコミュニティが生まれ、掲示板などへ誘導されることもある。益子さんは、その機能を利用して、「#自殺希望」というタグがついたつぶやきを検索して読んだり、投稿したりしていた。

「自殺志願者が集まる掲示板に毎日アクセスし、そこでいろんなやり取りをしました。出だしは”死にたい”から始まり、今日は何があったなどの雑談、愚痴や不満を言い合います。薬を何錠のんだとか、手首を切ったという話も多く、みんなに共通していたのは、現実世界に嫌気がさしたという”厭世観”だったと思います」(益子さん)

 益子さんによれば、この”厭世観”を端的に発することが出来るのが”死にたい”というキーワードだった。”死にたい”と書き込んだりつぶやく人々の周りには、ごく自然に同じように悩みを持った”死にたい”という人々が集まった。お互いの顔も知らなければ、年齢も住んでいる場所さえ知らない、モニタやスマホの向こう側にいる誰かでも、”死にたい”と吐露し合える人は仲間であり、確かに友人だったという。

「死にたいとつぶやくことが、本当に死にたいというわけではない。もうどうしようもないから後は死ぬしかない、でもどうにかなるなら死にたくないし生きていたい、という思い。これは、自殺希望アカウントの中の人に共通する気持ちではないかと思います。それをわかっているから、私たちは自殺志願者同士で集い、相談したり、癒しあったりする」(益子さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト