「舞台も含めて、相手役の女優さんと共演する時、僕は相手役のトーンを聞きながら合わせています。そうすると、女優さんも僕に合わせようとしてくれる。そうやって芝居は成り立っていると思うんです。勇次の時は、僕は喋るトーンを最初決めてなくて、山田さんと初めて会ってから決めようと思っていました。テストの時に『あ、こういう喋り方の人なんだ』と分かったので、それに合わせて自分の喋るトーンを決めました。
それから勇次は基本的に母親を守る役なので、山田さんが前に出て僕は後に回っていようと思いました。僕はかばうように後に控えているのが見えていればいい。ですから、セリフも少なくていいんじゃないかとプロデューサーに話しました」
回数を経るにしたがい勇次の殺し方は派手になり、それに合わせて衣裳やメイクもケレン味が強いものになっていった。
「シリーズは長く続くと退屈になってくるので、殺しの時の色目をみんなで工夫しましたね。
髪を前に垂らす『色じけ』をかつら屋さんと話して出させてもらったり。イメージは湯上りの女性です。髪をちょっと垂らすと色気が出るんですよ。蛇の目傘も、そう。赤とか紫とか、色気のある傘を使っています。メイクも濃い目にしました。目の上に紫のシャドウを入れてちょっと怖くなるようにね。他にも着物の背中に南無阿弥陀仏と入れたり。そういうのをスタッフたちも考えてくれたんです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年12月1日号