■高い報酬で引き抜く手段は有効か
現在、パイロットの年収はキャリア、訓練月のフライト手当補填などによっても異なるが、ある程度の経験を持った大手航空会社のパイロットなら2000万円以上は保証されるという。
「LCCであっても、あまり年収を抑えると人が集まらないので、キャプテン(機長)に2000万円近くを提示する会社は多い。また、報酬が安いからという理由で現役機長に移籍されても困るので、他社を見て年収を少しずつ吊り上げるという待遇改善が業界全体でこの5年ほど続いている」(業界関係者)
当然、ヘッドハンティングを仕掛ける際には、「ウチに来てくれれば、今の年収より上積みします」というやり方は有効だが、報酬提示にも限界はある。
「中国や中東のエアラインが4000万円など破格の報酬をエサに世界中からパイロットを集めている。人件費の高騰が経営にとって大きなインパクトとなるLCCなどは到底太刀打ちできないため、経営の安定度や社風の良さなどアピールしてパイロットの固定化を図っている」(航空経営研究所)
だが、日本人パイロットといえども、自国のエアラインで操縦かんを握るだけがベストな選択肢とはいえない風潮もうかがえる。
「2010年に日本航空が破綻して以降、パイロットの流動性が生まれ、会社を移るという心理的垣根はなくなった。もちろん海外の航空会社に行けば、何かあるとすぐに手のひらを返される恐れもあるが、とりあえず高給をもらえるだけもらって、また移籍すればいいと考えるパイロットは増えた」(元パイロット)
■人材難でも余剰パイロットは抱えられない?
航空会社が事業計画や路線の拡張を練るうえで、パイロットの確保が欠かせないことは言うまでもない。
「一般的に新型機を3機導入すれば30人単位のパイロットが必要で、今いるパイロットを訓練に回せば定期運航にも支障が出る。あらかじめ余剰人員を抱えておかなければならない」(元パイロット)
もちろん、パイロットが数人辞めただけで定期便が欠航するという近年の事態は、「会社のイメージだけでなく、社会的な使命も果たせなくなる」(航空経営研究所)ことに等しい。だが、余剰人員を抱え込みすぎるのも、航空会社にとってはリスク増になり得るという。
「航空業界は世界情勢の変化や大きな出来事によって、右肩上がりだった業績が一気に落ち込んでしまう。これまでもアメリカ同時多発テロ、SARS騒動、リーマン・ショック……といった出来事の度に経営状況が悪化し、真っ先にパイロットを含めた人件費を削るという施策を繰り返してきた。
そうした歴史を考えると、やみくもにパイロットを確保するのはどうかという慎重な意見があるのも確か」(航空経営研究所)
いずれにせよ、2020年の東京五輪を控えて日本の航空需要が高まっているいま、流出や引き抜きなどパイロットの争奪戦は一層過熱していきそうだ。