あの時は佐野氏が関与する別の仕事についても疑惑が噴出し、サントリーの「佐野研二郎デザイン 夏は昼からトート」キャンペーンに登場した30点のトートバッグのうち、8点に疑義が呈された。これが「佐野おろし」を決定的としたほか、エンブレムのプレゼンで使った資料の中にも他人の撮影した羽田空港や野外フェスの写真が加工されていたことも明らかにされ、同氏のデザインは撤回された。
以後、佐野氏は表舞台から消えたかのように見えたが、業界内では同氏に対して同情的な声も多かったようだ。というのも、サントリーの件はさておき、佐野氏本人ががっつりとかかわる仕事についてクライアントも広告代理店も高く評価していたからである。広告会社関係者が語る。
「あの騒動の後、某大手企業の社長が『佐野研二郎君を励ます会』を企画するほど、彼は評価されていました。当時、ネット上のバッシングの高まりに抗えず一部企画を落とすこともありましたが、本心からいえば佐野氏との仕事は継続したいと考えていた企業は少なくない。そもそも、クライアントとしてもネットが過剰に騒いでいたのでは、という思いもあったので、彼への信頼感は揺るがなかった」
しかし、今回の岸氏の場合は状況が違う。佐野氏の時はネット民が一体となってパクリや「怪しい癒着関係」を明かそうとする「ボランティア探偵続々」という状況になった。その中には単なる憶測の域を越えないものも少なくなかった。これらはいわば「お祭り」的なものだったのだが、今回は明確な被害者が存在する上、人権問題として労働関連やフェミニズム関連の専門家や活動家も動く可能性もある案件だ。さらに、現在は2人とも電通から離れているとはいえ、昨今のパワハラ、過労死問題でブラック企業認定を受けた同社が絡んでいるため、格好のバッシング対象となる。