SNSで「死にたい」とつぶやくとすぐに警察や運営からの連絡がくるようになれば、同じ思いを持たない人たちからの目を気にする「死にたい」などと呟くユーザーらは、表に見える部分で目立たないように振る舞い始める。その結果、ダイレクトメールで知り合った人物などと、第三者から見えない部分で「死にたい」ことについてやりとりを始めるようになる。
残念なことだが、こういった親密で閉鎖された集まりにも、死にたいと呟く人々を狙う悪意を持った人物が加わろうと画策する。そして、彼らは実に巧妙に、仲間のふりをして潜り込む。そして「死にたい」とつぶやくユーザーたちから金銭詐取や性的搾取、ひどい場合は命を奪うことそのものを企み、実行する可能性がある。
現に、リコさんの以前のつぶやきをチェックしていた、もしくはネット上に残るキャッシュなどで見た第三者のうちの複数は、猥褻なメッセージを送ってきたり、執拗に会うことを要求し続けたりしている。
こうやって、SNSの片隅でこっそり気持ちを吐き出していた弱い立場にある人々は、事件をきっかけに明るみに出されたことに戸惑い、恐怖すら感じている。そして、さらに見つかりづらい場所へと移動した。結果、本当なら保護されるべき弱者そのものが世間から見えにくくなり、危険により近いところに追いやられてしまったような格好になった。
さらに別の「弊害」も生まれつつある。自殺防止の為に活動するNPO法人の関係者は、政府や当局の掲げた取り組みでは、現状を好転させるには不十分だと話す。
「当NPOでは、悩みを持った人や自殺志願者向けの電話相談をやっていますが、すでに人も電話回線も足りない状況です。事件をきっかけに、私たちのような機関がある、とマスコミが取り上げてくれたことには感謝していますが、どの機関もパンク状態で救済機関として回らなくなりつつあるのも本音です。私たちには話を聞くことしかできませんし、その話ですら、すでに満足に聞いてあげることができなくなっている。弱者を根本的に救済するような、弱者を生み出さないという前提に立った政策が必要ではないでしょうか」(NPO関係者)
自殺をしてしまうかもしれない、常に死ぬことを考えてしまう状態になった人に対する対処ばかり手厚くしても、長期的な自殺防止には遠回り過ぎる。雨漏りがするからと水を受ける容れ物ばかり増やし、壊れた屋根を直さないままでいるようなものだからだ。
かつて年間3万人を超えていた日本国内の自殺者は、実は減少傾向にある。しかし、依然自殺者数は「世界ワースト6位」であり、何より若年層の死因の1位が未だ「自殺」であること、特に女性の自殺率に至っては「世界ワースト3位」という事実がある。
座間の事件では、被害者9名のうち8名が若い女性だった。さらに、座間事件を模倣したように、若い女性を狙い撃ちにした事件が2018年早々にも発生している。SNS上では、自殺を仄めかす書き込みが未だ相次ぎ“自殺”という言葉が、非常に身近にあることを思い知らされる。
数字上の自殺者が減っているからといって、自殺志願者の潜在的な数が減っているという風には思えない側面があることも、十分に考慮されるべきだろう。