和歌山県精神保健福祉家族会連合会の障害者施策推進委員長で、精神疾患患者の家族の支援活動を続ける大畠信雄氏が語る。

「寝屋川の事件には胸が締めつけられる思いでした。両親のやったことは決して許されることではありませんが、私自身、精神疾患を患う長男を持つ身として、家に閉じ込めようと思ったことがないか、と言われれば、ある。全国の精神疾患患者の家族は、誰もが一度は同じ思いに駆られているはず。それほどまでに、患者の言動に家族は苦しんでいるのです」

 厚労省が3年ごとにまとめる「患者調査」によると、2014年の精神疾患患者は392万人で、過去最高の数字を記録。前回調査時は320万人で、わずか3年間で70万人増えている。そのうち、愛里さんと同じ「統合失調症」と診断された患者は77万人。妄想、幻覚を筆頭に、自傷他害行動にまで発展するケースの多い同症は、いまだ発症のメカニズムや根本的な原因は解明されていない。

 長男が中2の時に統合失調症を発症した大畠氏もまた、われを忘れて激昂し、暴れ回るわが子を前にして、なす術がなかったと言う。

「殴られて目がパンダのように腫れたり、あばら骨が2本折れたこともある。教育方針が悪かったのか、遺伝なのか…と自分を責め続けながら、かといって周囲には相談もできない。他者に救いを求めるよりも“誰にも知られたくない”という思いが勝ってしまうんです。来客があるたびに2階に閉じ込めていた、という家族の悩みもよく聞きますが、この気持ちはとてもわかる」(大畠氏)

 医療機関に頼ろうにも精神疾患患者は自分が病だという自覚がなく、頑として通院しないケースが多いといい、大畠氏の長男も同様だった。

「私の場合、“眠れる薬をもらいに行こう”と言って、なんとか病院に連れ出しましたが、息子はもらってきた薬をその日のうちにすべて焼いてしまった。どうしようもなく、ただただ絶望するしかなかった。寝屋川の事件も同じ苦悩の延長にあったのではないでしょうか。誰にも相談できず、対応策もわからず、希望を見い出す術もなくなった結果、『閉じ込める』という行為以外残されていなかったのではないか。そんな気がしてなりません」(大畠氏)

※女性セブン2018年2月8日号

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