ビジネス

鉄道会社「撮り鉄との共存共栄」を模索する新しい動きとは

真岡鉄道の真岡駅舎はSLを模したデザイン

 鉄道写真を撮ることが趣味の鉄道ファンを「撮り鉄」と呼ぶ。この呼称、彼らの一部が問題行動を起こしている様子がSNSで拡散されたこともあり、とくに鉄道趣味がない人にも悪い意味で広まってしまった。大多数の穏やかな鉄道ファンには迷惑な話だろう。鉄道会社は現状を少しでも改善すべく、鉄道写真に興味がある人や、学習する機会がないために迷惑行動を起こすかもしれない人に向けて、様々な試みを始めている。ライターの小川裕夫氏が、ファンとの共存共栄をはかる鉄道会社のチャレンジをリポートする。

 * * *
 ルールを守らない撮り鉄の暴走が目に余る──ツイッター・フェイスブック・ブログを通じて、各地の鉄道会社が迷惑な鉄道ファンによる被害を報告するようになった。

 従来、鉄道会社にとって、鉄道ファンは”客”であり、経営を支える心強いサポーターでもある。テレビや雑誌などを凌ぐ拡散力を持つSNSによって、鉄道会社の宣伝される。それを目にした人たちが、わざわざ遠方まで足を運びローカル線に乗る。

 昨年には”インスタ映え”が流行語大賞に選ばれ、安倍晋三総理大臣も地方活性化のためにインスタ利用を推奨するほどだ。それだけに、鉄道ファンによる情報発信は侮れない。

 実際、千葉県の銚子電鉄は2006年に経営危機に直面。全国から支援の手を差し伸べてもらおうと、「鉄道存続のため、ぬれ煎餅を買ってください」とブログで訴えた。それを見たファンが即座に拡散。ぬれ煎餅の注文が全国から殺到して、その売り上げアップにより、銚子電鉄は危機を脱した。きちんとマナーを守ってくれれば、鉄道会社にとって鉄道ファンは心強い存在でもあるのだ。

 ところが、昨今は鉄道ファンが鉄道会社にもたらすプラス面よりも、マイナス面ばかりが強調されるようになった。

 線路内に侵入して運行の妨害する、乗客を不要に撮影して不快にさせる、駅舎や車両内の備品を壊す・盗むetc…

 経営が安定している大手の鉄道会社ならばともかく、少しでも利用者を取り込みたい鉄道会社は鉄道ファンを一律に排除できない。ルールを守っているファンを排除しかねないのだ。その判断は、難しい。

 迷惑な鉄道ファンと、どう共存するのか? 特に、誰もがスマホでも手軽に撮影できるようになった昨今、撮り鉄との共存共栄は急務だ。古くて新しい悩みに、鉄道会社は模索を始めた。

 茨城県・栃木県のローカル鉄道・真岡鉄道も撮り鉄との共存共栄を目指す取り組む鉄道会社だ。真岡鉄道が撮り鉄との共存共栄を目指すことになったのは2016年4月11日まで遡る。

 事の起こりは、真岡鉄道の公式フェイスブックにアップされた内容だった。

 真岡鉄道は1994年から沿線活性化を目的として、SLの運行を開始した。SLは鉄道ファンのみならずチビッ子にも人気があり、観光客や近隣住民などにも喜ばれるコンテンツだった。

 そんなSL人気に沸く真岡鉄道は、春になると線路沿いに菜の花が咲き乱れる。一面が黄色に染まる美しい光景を一目見ようと、沿線は多くの人出でにぎわう。地元民も毎年楽しみにしている。

 しかし、悪質な撮り鉄にとって菜の花は単なるSL撮影を邪魔する障害物にと映る。普通に考えれば、菜の花畑とSLのコントラストは美しいはずだが、邪魔な菜の花を除去しようとしたのか、撮り鉄たちは菜の花畑を踏み荒らすという暴挙に出たのだ。

 真岡鉄道は、この行状に大激怒。フェイスブックに「もう来ないで下さい」と絶縁を宣言した。

 真岡鉄道の絶縁宣言は正鵠を射た内容だったが、公式フェイスブックが発信したという衝撃的な事実に、真岡鉄道関係者や沿線の自治体関係者・住民・鉄道ファンは騒然となる。テレビ・新聞・雑誌・ネットメディアが、こぞって取り上げる事態にまで発展した。

 騒動を受け、真岡鉄道の関係者たちからは「なんとか鉄道ファンとの共存を目指せないか?」との意見も出るようになった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン