息子の晃弘氏に社長を譲って親子経営に挑む大山健太郎氏
そのキーワードが、アイリスオーヤマでは“メーカーベンダー”と称している業態だといえる。メーカーでありながら、ベンダー、つまり問屋機能も自前で持つことで直接、商品を小売業に流せることができ、販路もネット通販はもちろん、リアル店舗は家電量販店だけでなく、ホームセンターやドラッグストアなど多彩だ。
ともあれ、メーカーベンダーになったことでコスト的に既存のメーカーよりも優位に立てる。流通原価が安くなる分を、商品売価に反映できるという仕組みである。工場原価の段階で既存のメーカーに多少、見劣りがしても、流通原価の削減で十分、優位な戦いができるのだ。
しかも、アイリスオーヤマでは小回りの利く企業規模や創業家社長の大山氏の強いリーダーシップで、流行り廃りの早い世の中の流れに遅れることのない体制を敷いてきた。それが、毎週月曜日に行ってきた新商品開発会議だ。
同会議の会場では大山氏がハンコを片手に常に最前列に座り、開発担当者のプレゼンを聞いてきた。そして大山氏がゴーサインを出せば、それが即、会社が決めた商品となるので具体的な開発着手も早い。これは大山氏に「少ない商品で勝負してはいけない」という持論があるからで、年間の売り上げに対して、常に新商品比率5割キープを方針として掲げてきた。
それでいて、社員の士気を高める温情も忘れない。たとえば開発会議で通ったアイデアを商品化し、仮に不発に終わったとしても、大山氏は降格させたり賞与を減らしたりはしなかった。そればかりか、売り上げが4000億円を超えたいまでも株式公開はしない方針を貫いているが、これも、見知らぬ株主に配当を払うくらいなら、日夜努力している社員に、年に2回の賞与以外に決算賞与でも報いたいという考えが根底にあったからだ。
こうして順調に業績を伸ばしてきた大山氏は、創業60周年の節目の今年、大きな決断を下した。
同氏の長男でアイリスオーヤマ取締役の晃弘氏を、7月1日付で社長に昇格させると発表したのがそれで、1971年から47年間、同社を牽引してきた72歳の健太郎氏から、39歳の晃弘氏へのバトンタッチとなる。2018年12月期の売り上げ予想は5000億円だが、5年後の2022年12月期には、一気に大台で倍増の1兆円を目標にすることも掲げた。
引き続き、株式公開の意思はなく、本社も仙台市から動かさない点は父親時代と同様ながら、5年後に倍増の1兆円を達成するには、国内外で野心的なM&Aにも打って出なければ、オーガニックな成長だけではなかなかハードルが高い。
ネット通販やグローバル化の中での海外展開の加速を考えれば、節目での晃弘氏の登板は時宜を得た決断だろうが、健太郎氏も代表権のある会長として引き続きアイリスオーヤマとグループ会社を俯瞰し、同社の変えていいものと変えてはいけないものの選別については目を光らせるはずだ。
商品的な注目点は、LED照明でブレイクしたアイリスオーヤマが今後、どこまで家電領域を広げるかにある。