よく、マーケットインとプロダクトアウトと言われる。前者は徹底的に市場調査して消費者の望む商品をメーカーが作ること、後者はメーカー側の思い入れが強く、自信を持って送り込んだ商品のことだが、アイリスオーヤマではマーケットインとは呼ばず、“ユーザーイン”と称している。要は、消費者のニーズに合った商品にとどまらず、生活者の不便や不足まで踏み込んだ商品開発だという。大山氏はこの点についてもこう言及していた。
「競合他社と同じものだったら安くする。あるいは価格が同じなら何か機能を増やす。詰まるところはこの2つしかありません。特に後者はとかく、生活者には不必要な機能なのに商品を勝手にスペックアップしてしまう。
たとえばテレビのリモコンが典型でしょう。ボタンが多過ぎて、録画したつもりがいざ、動画再生しようとしたら録画されていなかった、なんていう笑うに笑えない経験を、大なり小なりみなさんお持ちでしょう」
実際、大山氏自身も、かつて自宅用に20万円する電子レンジの高級機を購入したものの、最初は高機能ぶりに面白がっていた夫人が飽きてしまい、結局は簡便でシンプルな電子レンジが一番で、そこに生活者の不便や不足を解決する一ひねりの機能を付加すれば、売れ筋商品に育つことを確信したようだ。
これまで掃除機や加湿器、扇風機、サーキュレーター、オーブンレンジ、音声機能付きIHクッキングヒーターなどを世に送り出し、最近はエアコンまで手がけるアイリスオーヤマだが、そうした領域の拡大を可能にしたのがパナソニックやシャープといった大手家電メーカーのリストラだった。
希望退職などで会社を去ったエンジニアたちの受け皿として、アイリスオーヤマが積極的な中途採用を行ったからである。5年前の2013年5月には、大阪・梅田で開発拠点も開設している。
確かに優秀なエンジニアが採用できれば良品は開発できる。ただ、その良品を価格競争力のある廉価で市場に投入できるのには、何か理由があるはずだ。