モノが豊かになった1980年代以降、サービス提供者はカネを出す側の「お客様」の言いなりになることこそが良いサービスだと思わされてきた。「お客様は神様です」を提唱した三波春夫が本来意図した「ステージを観に来てくれるお客様」を、「どこであろうとカネを払う側は神様のようにエラい」と曲解し、モンスターカスタマー誕生に至った。
そんな時代を経てワタミや電通での過労からの従業員自殺や、ユニクロのブラック企業裁判などが問題となる。客への滅私奉公と過度な社畜っぷりが糾弾される現状は、日本社会でここ30年以上にわたって続けられてきた「超拝金主義」「カネの奴隷化現象」とでもいえそうな風潮にようやく楔を打ち込む形となった。
これまで無理し過ぎていたのである。「客が店内にいるのに店員が座っているとは何事だ!」などとコンビニ店員に対して文句をつけるような輩もいた。別に1泊8万円の高級ホテルに泊まっているでもなく、たかだか150円のジュースを買うために入店している人間が、時給800円台で働く店員にそこまで高いレベルのサービスを求めるべきではない。
先日、成田空港でLCCが雪で足止めをくらったことに激怒した中国人の175人の集団が大暴れしたが、「約款を読め」で終わりである。「お前達は激安運賃を享受するためにリスクを取ったんだよ」としか思えない。
かつてのネットではサービスや態度の悪い店員を晒すことにより、その店を炎上させる例が相次いでいたがここ数年は店員や店の擁護の方が目立つ。サービス提供者と受益者は同格、ただし上客は優遇するしマナーの悪い客はいらない──こんな姿勢がネットでは支持されるようになっている。客の態度の悪さに悩む事業者はご参考あれ。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『縁の切り方』など
※週刊ポスト2018年3月2日号