想像するしかありませんが、速く走れば鉄砲に撃たれないかもしれない、前に進むことによって危険が少なくなると学習させた。鼓舞して褒めて食べ物を与える。そういう作業を繰り返さないと、馬が戦に入っていくことはありえません。
前回「馬はゴール板がどこかを認識している」と書きました。軍馬からのイメージを使うなら、ゴール板に地雷が埋まっていて、速くそこを通過すれば危険から逃れられる、という感じでしょうか。
さらに、「馬にはジョッキーがわかるのか」。きっとわかっています。顔や体臭で判別するのではなく、騎乗のリズムでわかる。ジョッキーによって重心が違うので、「この重心は誰々だ」と認識する。さすがに「このリズムは武豊さんだ」とはわからないものの、「以前に乗ってくれた人だ」と感じている。鞍上がたびたび変わる場合には、それを複数記憶していると思います。
おそらくですが、いい鞍上をよりよく覚えている。馬には馬の走りのリズムがあって、ジョッキーがそれを妨げないリズムで乗ってくれるとラクなのです。だから鞍上が跨った瞬間に、「あ、この前、気持ちよく走れたときのジョッキーだ」と思うはず。逆に、「あれ？ この前とはちょっと違うぞ。俺の走りに合わせて欲しいなぁ」などと感じることも。
最後はジョッキーの話になってしまいましたが、結局、馬のリズムを汲み取り、そこに合わせられるジョッキーが優秀なのです。馬も人間も賢くなければ、レースでは勝てません。
●すみい・かつひこ／1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後16年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』（小学館新書）が好評発売中。2021年2月で引退することを発表している。
※週刊ポスト2018年3月2日号
