時間も早いし、1杯だけならまぁいいか。と、バーに向かうエレベーターに乗った瞬間だった。ドアが閉まると同時に、ヒロキが突然キスをしてきた。そんなムードも前触れもなかった。
レイラは思った。この男、自分がそこそこ売れてる弁護士ってだけで、中身ないくせにどんな女も落とせると思ってるな。
そしてバーに入った。バーにいた知人たちに得意気な口調でレイラを紹介し、ヒロキは語り始めた。
「俺って夢がでかいし向上心あるのよ。将来は違う事業も展開したいし、政治にも興味ある。やっぱ稼ぐぶん、女は切れないし寄ってくるけど、そういうのも承知で俺をサポートしてくれる女性を奥さんとかパートナーにしたいんだよね」
あぁ~、これ系か。他の人がいる食事会では爽やかなのに、2人になると自慢モードでオラオラになるタイプ。きっとチープな港区女子は、こんな雑な口説きでも「メディアに露出してるエリート弁護士!」というだけでウットリするに違いない。
しかし、レイラは違う。会社もあるし、資産もある。しかし、そんなものはいつでも消えうることもわかっている。その高みにいるからこそ、内なる魅力が大切なのだ。同じようなハイスペック男なんて、腐るほどいる。なぜこの男は勘違いして、キスまでしてきたのか。
そんなにイケてるのか。お前には人間的な面白味を感じない。レイラは言った。
「ねえ、そういう女、いると思う? どこにもいないよ。まあいるとすれば、そういうフリをする女だね。あなたを愛しているフリ。それはお金のため。あなたじゃない、あなたのお金のため。
それからさっきのキス、あれ最悪。車の正面衝突みたいだけど? 酔ったオヤジがやる手法。ダサくない? あなたみたいに、自分のお金とスペックだけを武器にしてどんな女もイージーだと思ってる男、くだらなくて。つまんない、ごめんね☆ さようなら」