ジョセフ氏が運営する老人ホーム。4000人以上が入居する
「ユダヤ人のコミュニティから発想を得ました。彼らはホロコーストの被害を、ドイツのみならず世界に対して伝えている。しかし、同じく多くの犠牲者が出たアジアの被害は、欧米であまり知られていません。アジア人の命が欧米人よりも軽いはずはない。この問題を世界的に啓蒙することこそ正義だと考えたのです」
長年にわたり、尖閣・南京・慰安婦と様々な分野に手を広げたジョセフの経歴は、まさに「反日グランドマスター」とでも呼びたくなる。しかし、本人は意外なほど知的かつ温厚で、イヤな印象をまったく感じさせないのが特徴だ。
◆世界的ベストセラーへ
ジョセフが本格的に対日本の抗議運動にのめりこんだ契機は、1996年に盛り上がった尖閣問題だった。当時、すでに現地華人社会の名士だった彼はトロントに尖閣抗議団体を設立。バス4台で華人住民を引き連れ、首都オタワの日本大使館に抗議に向かった。
「釣魚台(尖閣諸島)は、中国が日清戦争により日本に奪われ、さらに大戦後も未返還になっている場所。日本政府がこうした地域にこだわる姿勢を示すことは、軍国主義の復活や日中間の戦争につながる。避けるべきだと考えました」
そう考えたジョセフは、やがて尖閣問題の原因が過去の日本の侵略にあると考え、翌1997年に抗議団体を対日歴史問題の追及組織(AEの前身)に改組することになる。
当時のジョセフの活動で目を引くのは、米国の華人系女性作家アイリス・チャン(張純如、ヂャンチュンルゥ)が1997年に出版した『ザ・レイプ・オブ・南京』(以下、『南京』)の事実上の仕掛け人となったことだ。