◆南京でスタディツアー
やがてジョセフは2004年ごろから教育分野に注目。オンタリオ州議会や行政へのロビー運動や、歴史問題ドキュメンタリー映画の制作支援を盛んにおこなうようになっていく。
ジョセフが率いるAEは2005年、州の教育庁に働きかけて、アジアでの大戦被害の「真実」を州内の高校の必修カリキュラムに組み込ませることに成功する。アイリスの著書をはじめ、歴史問題関連書籍を高校900校の図書館に寄贈する運動も開始した。
「中国政府や、他の歴史問題団体の一部は南京大虐殺の犠牲者を30万人だと主張していますが、AEが認可したティーチング資料はすべて、東京裁判の判決を根拠として『20万人以上』と書く立場です。むやみに数字を誇張することは避けなければいけない。もっとも、人数は本質的な問題ではありません。1937年の南京で多くの人が亡くなったことが、最も重要な問題だと考えています」
AEは州内の高校教師ら25人ほどを、南京やソウルの抗日博物館に送り込むスタディツアーも実施している。
同ツアーの参加者だった台湾系カナダ人のティファニー・ションは、AEの支援を受けて慰安婦ドキュメンタリー映画『謝罪』(2016年)を制作。中国や台湾の慰安婦関連組織と連携している。また、昨年秋に州議会で南京動議を提唱したスー・ウォン議員もAEとの関係は非常に密接だ。
数多くの「弟子」たちが生まれていることも、ジョセフの影響力の大きさを感じさせる。
※文中敬称略
【プロフィール】やすだ・みねとし/ノンフィクションライター。1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。当時の専攻は中国近現代史。著書に『和僑』『境界の民』『野心 郭台銘伝』など。
※SAPIO 2018年3・4月号