そして、栄氏のもっとも面倒なところは、自分についての評判を気にしすぎるあまり、人が話している内容を盗み聞きして歩くところだと、別のレスリング関係者は苦笑しながら言う。

「こちらが何気なくしていた立ち話を、かなりの確率で盗み聞きしているのに何度も驚かされました。たわいもない近況報告だったりするんですが、それを妙な深読みされたりして、本当に面倒でした。あんまり盗み聞きばかりして歩くから『壁に耳あり障子に栄あり』なんて言われたくらいです(笑)」

 勝てる選手を育てる指導者としては優秀だと認められながら、同期、先輩、後輩からの評価はさんざん。とはいえ、勝つ選手を育てたことが認められて、レスリング3種目すべての強化トップについた栄氏は、2015年には強化本部長というさらに強い役職を手に入れた。2016年リオデジャネイロ五輪では女子全階級の代表に教え子を送り出し、金4銀2という結果を残した。

 確かに女子の成績は素晴らしいが、人望があるという証言が少ない栄氏が、女子強化の責任者だけでなく強化本部長という地位に居続けるのはなぜか。その理由は単純だと、元女子レスリング選手は言う。

「女子の指導に本気で取り組む人がいなくて、選手だけじゃなくて指導者も育てていないからですよ。レベルが低いから関わりたくないと態度が露骨な男性の指導者もいるし、口には出さなくても、女子を同じレスリング選手としてみていない人が多いです。そういう意味では、五輪に出た栄さんが指導をしてくれたことはありがたかった。でも、それで余計に、お金と権力と女が好きな、栄さんしか残らなかった。気づけば女子で結果が出ているから、栄さんの要求はどんどんエスカレートして止められなくなったんだと思います。最近はやっていないかもしれないけど、スパーリングで女の子の顔を踏んだり、バランスを確かめるゲームだと言って勢いで女子の服を脱がせるようなことをしていた人ですよ。それをなぜ、本気で止めてくれないんだろうと現役のときは不思議でならなかった。たぶん、私たちのことを男子と同じ選手なんだと思ってくれてなかったんですね」

 栄氏は6月まで休養することを明らかにしているが、関係者の誰にたずねても「自分から強化本部長を辞めるとは言わないんじゃないか」という。やっと手に入れた地位に対して、執着を隠しもしないのが「栄さんらしい」と複数の人が言う。また、他の指導者たちが敬遠して本気にならなかった女子への指導を、だれよりも長く続けて結果を出してきた自負も、役職を辞するのは納得がいかない気持ちにさせているだろうという声も聞こえる。

 内閣府の調査結果が出るのは、新年度になりそうだ。そのとき、栄氏はこれまでの生き方と相容れない決断をするのだろうか。

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