部活が人生の転機となるのは文化系も同じである。『東京タラレバ娘』『海月姫』などヒット作を連発する漫画家の東村アキコさんは宮崎県の県立高校にある美術部に入部し、そこで絵を描く喜びを知った。
また、「表現したい」と志を同じくする仲間とも出会ったそう。その中にはのちに現代美術作家として世に出る後輩もおり、その作品を見て「天才ってこういうことか。私の絵はダサいんだな…」と感じたことを明かしている。
部活動を通して自分とは違う才能に出会ったことも、東村さんが画家ではなく漫画家になる1つの理由だったのかもしれない。
発展途上の小中高生が人間として大きく成長できるのも、学校の部活だからこそ。6月に開幕するロシアW杯でも活躍が期待されるサッカー日本代表の長友佑都選手(31才)も部活で「人間力」を磨かれた1人。
Jリーグ愛媛FCの下部組織に落ちた長友少年は仕方なく地元の西条北中学のサッカー部に入部した。ちょうど同じタイミングで同中学に赴任したのが長友選手の恩師となる井上博先生だった。
「当時のサッカー部は悪ガキの巣窟で、まともに練習する生徒は皆無でした。佑都も部活をサボっては先輩に連れられてゲームセンターに行っていた。真面目にサッカーをやりたい気持ちはあっても周りに流されて逃げることの多い子でした」(井上先生)
サッカー部の立て直しを誓った井上先生は、「お前らを何とかするけぇ絶対について来いよ」と宣言し、部員一人ひとりの家庭を訪問した。
「部活をサボる佑都に『お母さんがこんな姿を見たらどう思う?』と言うと、女手ひとつで育ててくれた母を大事に思っている彼は涙を流しました。時には佑都の家に行き、お母さんに『ちょっと佑都を借りるけぇ』と夕飯を食べに連れて行って、ぼくも泣きながら話をしたこともあった。その繰り返しで佑都は徐々に変わっていった」(井上先生)
部員にノートを配って「交換日記」も行った。
「最初はみんな適当に書いていたけど、ぼくが必死で返事を書いたら子供らも応えてくれた。佑都も最初は『今日はシュート練習をして楽しかった』と1行程度の内容だったけど、そのうちページいっぱいにきれいな字で本気の思いを書いてくるようになりました」(井上先生)
部員たちの心身の成長とともにサッカー部は強くなり、長友少年が3年生の時のチームは県大会で3位入賞を果たした。子供がスポーツや芸術を通して、人として成長できることも、部活の強みだと井上先生は言う。