「現状では、認知症診断と交通事故に関する法的な整備がなされていない。医師が『認知症ではない』と判断した高齢ドライバーが事故を起こした場合、『医師が“運転OK”のお墨つきを与えたのに事故を起こした』として、医師が被害者から訴訟提起されるリスクも考えられます。故意に虚偽の診断書を書いたのでなければ賠償が認められる可能性は低いとはいえ、事案次第では分からないので、医師が不安に思うのも当然です」
◆専門外の医師が判断
医師会が高齢ドライバーをめぐる「訴訟リスク」を訴えた背景には、こんな事情もあるようだ。
「昨年2月の段階で、認知機能検査の認知症診断に対応できる登録医はわずか3100人で、認知症の専門医が不足している現状が明らかになりました。そのため対象者のかかりつけ医など、認知症の専門医ではない医師がマニュアルを頼りに診断しているのが現状。そうした医師は特に“訴訟リスク”に怯えています」(交通ジャーナリストの今井亮一氏)
昨年3月の導入以来、昨年末までの間に認知機能検査を受けた人は約172万人。「第1分類」と判定された人は約4万6000人で、実際に免許取り消しになったのは1351人だった(警察庁調べ)。
この数字を見ると認知症による免許取り消しは極めて稀に見えるが、今回の医師会の答申を踏まえ、“ドクターストップ”が今後、急増する可能性を指摘する声もある。米山医院院長で神経内科医の米山公啓氏が言う。