その点、【6】『日本軍と日本兵』(一ノ瀬俊也・講談社現代新書)は視点が新鮮である。太平洋戦争時、日本の主敵であるアメリカ軍が日本兵と日本軍をどのように評価していたかを、米軍内部で配布されていた広報誌を利用して明らかにする。バンザイ突撃など狂信的イメージが強い日本兵だが、実は防御陣地の隠蔽や機関銃による十字砲火など、米軍も感心するほど有効な戦術も用い、撤退できる場合は陣地を捨てることもあった。問題の本質は、将兵・火力が不足し降伏厳禁という条件下での合理性、ごく狭い意味での〈合理性〉の追求に固執した点にある、という著者の指摘は重い。

 戦後歴史学が軍事史研究を忌避した結果、世間では日本の戦に関する俗説が根強く残っている。右に紹介した書籍を入り口にして、知識を更新してほしい。

【PROFILE】呉座勇一(ござ・ゆういち)/日本史学者。1980年東京都生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。国際日本文化研究センター助教。近刊に『陰謀の日本中世史』(角川新書)。主な著書にベストセラー『応仁の乱』(中公新書)、『一揆の原理』(ちくま学芸文庫)、『戦争の日本中世史』(角川財団学芸賞、新潮選書)など。

※SAPIO2018年3・4月号

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