ライフ

日本史学者・呉座勇一が選ぶ日本の戦の本6冊

日本史学者の呉座勇一氏

 戦後、日本の歴史学界は、太平洋戦争の勃発を防げなかったことへの反省から、反戦平和主義を唱えるようになった。それじたいは結構なのだが、軍事や戦争を研究対象に据えることを避けるようになった。

 真に平和を望むのであれば、軍事や戦争を思考の外に置くのではなく、かえってそれらを正面から検討し、戦争回避の方法を真摯に考察する必要がある。近年は日本史学界でも、右の問題意識から、軍事史研究や戦争論が盛んになっている。ここでは、そうした研究成果のエッセンスが詰められた一般書を紹介する。

 まずは古代史。古代には、貴族が謀略をめぐらす陰湿な雰囲気がつきまとうが、実際には多くの政治抗争に武力行使が伴った。藤原氏が他氏との権力闘争に勝利できたのは、自らの私的武力を公的武力に組み込み、また公的武力を私物化することで巨大な軍事力を掌握したからである。【1】『古代国家と軍隊』(笹山晴生・講談社学術文庫)はこの分野の古典的名著で、朝廷の武力機構の変遷から古代史を描く。

 続いて中世史。中世戦争論の先駆けとなった【2】『源平合戦の虚像を剥ぐ』(川合康・講談社学術文庫)を押さえておきたい。「平家は貴族化し軟弱だったので負けた」「武士たちは基本的に一騎打ちで戦った」といったステレオタイプな源平合戦像を覆した画期的な書である。しかも鎌倉幕府の政治機構が源平合戦という戦争の中で形成されたことを解き明かしたことが素晴らしい。戦争研究は軍事マニアが趣味的にやるものではなく、政治史を正確に理解するために不可欠なのだ。

 戦国時代の合戦についても、研究が急速に進展し、通説を塗り替えつつある。この分野に先鞭をつけたのは、鈴木眞哉氏や藤本正行氏など在野の歴史研究者だったが、最近は黒田基樹氏や平山優氏など、アカデミズムの研究者も参入し、百家争鳴である。【3】『戦国の軍隊』(西股総生・角川ソフィア文庫)が騎馬隊・鉄砲・足軽・兵站・兵農分離など主要な論点を整理しており、入門書として最適である。

関連キーワード

トピックス

本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
2021年ドラ1右腕・森木大智
《悔しいし、情けないし…》高卒4年目で戦力外通告の元阪神ドラ1右腕 育成降格でかけられた「藤川球児監督からの言葉」とは
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
注目される次のキャリア(写真/共同通信社)
田久保真紀・伊東市長、次なるキャリアはまさかの「国政進出」か…メガソーラー反対の“広告塔”になる可能性
週刊ポスト
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
この笑顔はいつまで続くのか(左から吉村洋文氏、高市早苗・首相、藤田文武氏)
自民・維新連立の時限爆弾となる「橋下徹氏の鶴の一声」 高市首相とは過去に確執、維新党内では「橋下氏の影響下から独立すべき」との意見も
週刊ポスト
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン