談春・志らく・生志などが談志の『紺屋高尾』に独自の演出を施してそれぞれの色を強烈に出しているのに比べ、志の輔は比較的師匠に忠実な型だが、昨年11月に真打昇進した立川志の八(志の輔の二番弟子)は、エンディングを大きく変える演出を新たに生み出した。
3月15日、約束どおり久蔵の許を訪れた高尾に親方は「花魁、このままお引き取りください」と意外な一言。「来てくださって、この野郎の男も立ちました。それで結構です。お前さんに職人の女房は無理だ」
花魁は何もしなくていい、自分が働くからと食って掛かるも「それじゃ示しがつかねぇ」と言われて泣き崩れる久蔵。それをじっと見ていた高尾、藍瓶に歩み寄るといきなり水の中に手を突っ込んだ。
高尾の決意を見た親方は「なんて人だ……久蔵、いいカミさんをもらったな! こんないい女を泣かせたら、ただ置かねぇぞ!」と一転。「そんなことまでさせちまって……勘弁してください」と頭を下げる久蔵に高尾が「見て……これであちきは身も心もぬしへの藍に染まりました」と言ってサゲ。高尾が来ただけで終わらず、そこからもう一つドラマを作ったところに、志の輔譲りの創作力を感じる。見事な発想だ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年5月18日号