ウーちゃん、晴さん、と呼び合うこの夫婦は、食堂を切り盛りするいわば同士。どちらが欠けても家業は回っていかない。友達風のフラットさはあるけれど、馴れ合っているわけではなくて父、母それぞれ自分なりの役割を担っている。こだわりや生き方、考え方もある。
一見頼りなさそうに見えるけど包容力がある父、肝っ玉母ちゃんとして強そうで涙もろい母。特に娘・鈴愛との距離については、父と母とではずいぶん違う。そのあたりをこのドラマでは絶妙に描き出していました。
「東京へ行きたい」と主張する娘に、「私のせいかな。私があの子に鈴愛(すずめ)なんて名前をつけたもんだから、遠くに飛んでってまう」と涙をこぼす母。「でも、そんなに遠くへは飛べないんやないの? すずめやもん。飛行機やないんやから」と不思議な励まし方をする父。二人は肩を寄せ合って「娘がいなくなる」現実を静かに受け止める。そして、夕刻の田舎の商店街を手をつないで歩く。それが実に自然でイヤらしくない。
これまで重ねてきた時間が背後にたしかにあって、行間でそれをじわりと物語らせる。無言のうちに信頼しあっている夫婦。それが手をつなぐシーンになっていく。ありそうではなかった新鮮さ。ちなみに、夫婦の手つなぎデートシーンは朝ドラ史上でも初めてのことらしい(NHK『ごごナマ』2018.05.7)。
そう、ウーちゃんと晴さんは、右手と左手のような関係なのです。
右手と左手は、形は似ていても全く同じ役割・機能ではない。少しずつ違う。そしてどちらの手も、互いを必要としている。お互いに補完しあっている。これまで朝ドラで描かれてきた日本の夫婦像といえば、どうしても父親の方に権威がつきまとっていました。それを振り回さない、本当にフラットな夫婦像は珍しい。
というように、この朝ドラには発見や誉めたくなる点があまりに多いのですが、敢えてイチャもんをつけてみるとすれば……当時、田舎のお爺さんでふさふさの髪の毛にしっかりとパーマをかけウェーブしている人なんて存在していましたっけ? 中村雅俊さんが演じる仙吉じいさんを見るたびにふと考えてしまう。ここは『われら青春!』の舞台ではないんですよ、とつっこみたくなる。
さて、今後はいよいよ東京編。大暴れしそうな珍妙なオジサン漫画家、豊川悦司さんにも注目です。