芸能

役者の「ゆりかご」唐組紅テントには人をさらう力がある

若い観客も増加(唐組提供『吸血姫』)

 テクノロジーの進化は人の嗜好を変える。だが、どれだけ「中継」「再生」が容易になっても抗いがたい魅力を持つ「生の空間」が存在するのもまた事実だろう。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 CDの売上減少が目立つ昨今。ネットでの有料配信・ダウンロード数は増加しても、CDの落ち込みをカバーするほどには至らず。複製コンテンツに替わって今人気を集めているのが、ライブです。その市場規模は急拡大し2006年からの10年間で、なんと2倍近くにまで拡大したとか。

 目の前でアーティストが汗を流し、身をよじらせ、声を振り絞る。二度と再生できない「今・ここ」だけの時・空間を、好きなアーティストの肉体と一緒にリズムを共振し、体感する幸せ。それはまさしく一回性の至福、特権的な体験です。

 そうしたライブの楽しみは、何も「音楽」に限りません。舞台・演劇に足を運ぶ人も目立つ昨今。そもそも演劇の原点は「芝居」、読んで字の如く「芝の上に座って見る娯楽」です。屋外の土の上で繰り広げられる「芝居」スタイルを、長年追い求めてきたのが唐十郎氏。劇団員が自らの手で土の上に柱を立てて、紅い色のテントを張り、地面にはゴザを敷く。観客たちはその上に膝を抱えて座り、舞台に見入る。

 嵐の日も真夏の日も土砂降りの日も極寒の中でも、唐氏の芝居はテント小屋で行われてきました。その唐氏主宰の劇団においても、“ここ数年で10代20代の若い観客、役者の姿がぐんと増えてきた”というのです。

 唐組は今、30周年記念公演第一弾として『吸血姫』(演出・久保井研+唐十郎。47年ぶりの再演)のツアーを大阪からスタートさせたところ。

 その物語は……幕がパッと開くと、スポットライトを浴びながら白衣姿で歌う銀粉蝶。歌手デビューを夢見る老看護婦の役を、銀粉蝶が取り憑かれたような狂乱ぶりで演じ、観客の心をわし掴みにしていきます。

 そして舞台の上には次々に、関東大震災で焼けた町、被災者が眠る上野の森、その先に立ち現れる幻の満州、東洋のマタ・ハリと呼ばれた女スパイ川島芳子……と幻想のように幾重にもイメージが立ち現れ、地層のように折り重なっていく。まるで禍々(まがまが)しい悪夢を見ているようでもあり、観客の意識は日常と切り離され、幻想空間へと連れ去られます。

 5月~6月末まで公演は新宿・花園神社、池袋・鬼子母神、長野市城山公園、静岡駿府城公園(最終日は6月23日)と移動していきますが、もちろん全てが土の上に紅いテントを張って興業される「芝居」そのものです。

関連記事

トピックス

橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
フレルスフ大統領夫妻との歓迎式典に出席するため、スフバートル広場に到着された両陛下。民族衣装を着た子供たちから渡された花束を、笑顔で受け取られた(8日)
《戦後80年慰霊の旅》天皇皇后両陛下、7泊8日でモンゴルへ “こんどこそふたりで”…そんな願いが実を結ぶ 歓迎式典では元横綱が揃い踏み
女性セブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
「凛みたいな女はいない。可愛くて仕方ないんだ…」事件3週間前に“両手ナイフ男”が吐露した被害者・伊藤凛さん(26)への“異常な執着心”《ガールズバー店員2人刺殺》
NEWSポストセブン