凍傷を負った指には包帯が巻かれていた


 8848mの世界最高峰、エベレストを制するには失礼ながら体が華奢な印象で、大けがを負った後だったせいもあるだろうが、言葉とは裏腹に弱っているような感じを受けた。そのためこの時は、「もしかすると、やめたくても、もうやめるにやめられない状況になってしまっただけなのではないか?」と思ってしまったほどだった。

 これまでに国内外の厳しい山々に挑戦する有名無名の登山家・冒険家の話を聞く機会が何度かあり、山の厳しさは多々耳にしていた。山のプロの中には、彼の単独・無酸素エベレスト登頂について「厳しい」と見る人は多いと聞いていたこともあり、取材を終え、「いつか、この人はエベレストで命を落としてしまうんじゃないだろうか。その前に、勇気をもって撤退する道もあるのではないだろうか?」と勝手ながら思った。もちろん、夢に向かう栗城さんにそんなことを言える由もないが、それが取材して感じた正直な気持ちだった。

 最後まで情熱を見せていた栗城さん。その本心は本人以外にわかりようがないけれども、昨夜のニュースで父・敏雄さんが「自分の好きなエベレストで消えた。ありがとうございます。皆さんに助けてもらって“バカ野郎”とは言えない。よく今まで頑張ってきたと思う」と話されたその言葉に、「自分の好きなエベレスト」で最期を遂げられたことは本望だったのかもしれない、とも思った。

 不屈の精神で、諦めず夢に向かってアタックし続けた栗城さん。そのチャレンジは多くの人たちに勇気を贈り届けてくれた。エベレストに抱かれて命を終えた栗城さんの魂が穏やかで安らかでありますよう、切に願う。心よりご冥福をお祈りいたします。

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