たとえば野沢尚の「親愛なる者へ」(1992年)は互いに不倫した夫婦がどう離婚の危機を乗り越えてゆくかというテーマが斬新だった。野島伸司の「高校教師」も、父と娘の近親相姦や、教師と女子高校生との恋愛など当時は禁断のテーマをドラマに織込んだ。著者が評価するのは、それまでのテレビドラマの枠組みを打ち破るような大胆な作品。九〇年代にはそうした意欲作が多かった。
著者は本当にテレビドラマが好きで、それは小松江里子脚本の「若葉のころ」(1996年)のキー・イメージとなった一本の木のロケ現場を求めて横浜市内の公園にまで出かける熱意にあらわれている。
九〇年代のテレビドラマは輝いていた。それがいまはどうだ。どのドラマも男女がくっついた離れたばかり。登場人物も都会の人間中心で間口が狭い。九〇年代の輝ける時代を知っているだけに著者のテレビの現状への批判は強くそれが小気味いい。
※週刊ポスト2018年6月8日号