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2018.06.03 07:00  SAPIO

齋藤孝氏が選ぶ日本人の“性”を知る6冊

【4】『盆踊り 乱交の民俗学』(下川耿史・作品社)は在野の風俗史家が、史料を掘り起こし、盆踊りが実は男女が出逢い、乱交をする場であったことを明らかにする。前記『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』や、民俗学のフィールドワークとして有名な『忘れられた日本人』(宮本常一、岩波文庫)も触れているが、乱交のルーツとして古代の「歌垣」も取り上げる。歌のやりとりをしつつ、性的な関係を結んでいくもので、『万葉集』にはそれを詠んだ歌もある。

 文学作品にも日本の豊かな性文化は反映されている。男女の色恋が文化として花開いた頂点の時代である平安時代の【5】『源氏物語』(紫式部)は、日本文学の最高峰として世界的に評価されている。人妻との恋(それも自分の父である天皇の後妻との交わり)、ロリータコンプレックス的な少女愛好など、“何でもあり”の世界が展開される。交わりを持つなかで歌がやりとりされ、当時の貴族の間では性的な関係において教養、文化が重視されたことがわかる。多くの訳本があるが、ここでは古典エッセイスト大塚ひかりによるものをお勧めしたい。『源氏物語』にはあからさまな描写はないものの、性愛が豊かに描かれており、大塚版はそのことに焦点を当て、充実した解説も挿入し、作品の世界が理解しやすい。

 ちなみに日本の性文化のキーワードのひとつは「想像力」。顔の見えない相手と歌のやりとりを通じてイメージを膨らませ、気持ちを高めていく。それが豊かな性文化を生んだ。【6】『性のタブーのない日本』(橋本治・集英社新書)は、古典の現代語訳も多く手掛けてきた作家が、『万葉集』『古事記』から『源氏物語』を経て近松門左衛門に至るまでの文学作品を取り上げ、日本人の性が緩やかで、タブーがなかったことを明らかにする。『源氏物語』では、「逢う」「見る」がイコール、性的な関係を結ぶことだったなど、面白い指摘がたくさんある。

 兄と妹の性行為によって国が生まれたとする『古事記』が象徴するように、古代から日本は性に関しておおらかだった。戦国時代に来日したポルトガルの宣教師ルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』(岡田章雄訳注、岩波文庫)にも、日本には処女信仰がなかったことがわかる記述がある。それが大きく変わったのが明治維新だ。西洋列強から未開の国と見られることを恐れた政府により、盆踊りも混浴も禁止された。江戸以前の社会に暗黒面があったことも確かだが、不寛容の時代だからこそ、かつての性に対する寛容さを知る意義はあるのではないか。

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