【4】『盆踊り 乱交の民俗学』(下川耿史・作品社)は在野の風俗史家が、史料を掘り起こし、盆踊りが実は男女が出逢い、乱交をする場であったことを明らかにする。前記『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』や、民俗学のフィールドワークとして有名な『忘れられた日本人』(宮本常一、岩波文庫)も触れているが、乱交のルーツとして古代の「歌垣」も取り上げる。歌のやりとりをしつつ、性的な関係を結んでいくもので、『万葉集』にはそれを詠んだ歌もある。

 文学作品にも日本の豊かな性文化は反映されている。男女の色恋が文化として花開いた頂点の時代である平安時代の【5】『源氏物語』(紫式部)は、日本文学の最高峰として世界的に評価されている。人妻との恋(それも自分の父である天皇の後妻との交わり)、ロリータコンプレックス的な少女愛好など、“何でもあり”の世界が展開される。交わりを持つなかで歌がやりとりされ、当時の貴族の間では性的な関係において教養、文化が重視されたことがわかる。多くの訳本があるが、ここでは古典エッセイスト大塚ひかりによるものをお勧めしたい。『源氏物語』にはあからさまな描写はないものの、性愛が豊かに描かれており、大塚版はそのことに焦点を当て、充実した解説も挿入し、作品の世界が理解しやすい。

 ちなみに日本の性文化のキーワードのひとつは「想像力」。顔の見えない相手と歌のやりとりを通じてイメージを膨らませ、気持ちを高めていく。それが豊かな性文化を生んだ。【6】『性のタブーのない日本』(橋本治・集英社新書)は、古典の現代語訳も多く手掛けてきた作家が、『万葉集』『古事記』から『源氏物語』を経て近松門左衛門に至るまでの文学作品を取り上げ、日本人の性が緩やかで、タブーがなかったことを明らかにする。『源氏物語』では、「逢う」「見る」がイコール、性的な関係を結ぶことだったなど、面白い指摘がたくさんある。

 兄と妹の性行為によって国が生まれたとする『古事記』が象徴するように、古代から日本は性に関しておおらかだった。戦国時代に来日したポルトガルの宣教師ルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』(岡田章雄訳注、岩波文庫)にも、日本には処女信仰がなかったことがわかる記述がある。それが大きく変わったのが明治維新だ。西洋列強から未開の国と見られることを恐れた政府により、盆踊りも混浴も禁止された。江戸以前の社会に暗黒面があったことも確かだが、不寛容の時代だからこそ、かつての性に対する寛容さを知る意義はあるのではないか。

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン