少女漫画誌『ベツコミ』編集長の萩原綾乃さんは、1990年代には漫画家と二人三脚でタッグを組む編集者にも女性が増えたと指摘する。
「1980年代は女性が1人いるかいないかだった少女漫画の編集部に、1990年代になると徐々に女性が増えてきました。そんな職場環境とリンクして、女性が自ら闘って活躍する物語が少女漫画に多く生まれたのかもしれません」
深夜までデスクにへばりつく貴子も“闘う女性”の1人だったのだ。
2000年、35才になった貴子は高校時代の彼氏“きしんちゃん”と結婚した。仕事に夢中だった20代はスレ違い、何度か別れたこともあったが、初恋を貫いてゴールインした。1児の母になった現在も“少女漫画ラブ”は変わらず、姪の櫻子とともに夢中になったのは『ホットギミック』(相原実貴作)。大企業の社宅に住む人々の悲喜こもごもを描く物語だ。
ただし同じ作品を読んでも読者の年齢により興味は異なる。姪の櫻子が主人公の女子高生・初に感情移入して「初はいったい誰とつきあうの!?」とときめく一方で、貴子は社宅の人間関係に苦しむ初の母親に自分の悩みを重ねてしまう。
作者の相原さんは「成長」がこの作品のテーマの1つだと語る。
「そもそもは夫の地位によって社宅内に“階級”が生まれるなか、高校生の幼なじみ同士が恋に落ちる『ロミオとジュリエット』が描きたかったんです。それとともに、“平穏に過ごすこと”が理想だったヒロインがいろいろな出来事に翻弄されながら、人を愛することを通して本当に大切なことに気づいていく。こうした成長がストーリーの核になっています」
2000年代はこのほかにも、2人の主人公による繊細なモノローグが印象的な『NANA』(矢沢あい作)や、母娘関係の機微をシリアスに描いた『砂時計』(芦原妃名子作)など、“影”のある作品が人気を博した。
「2000年代になると女子中高生にも携帯電話やSNSが徐々に普及して、人間関係が多様化した一方、それまで以上に空気を読んだり気を使ったりする必要が生じて、生活上のストレスが大きくなりました。
そのため、生きていてツラい部分を描いた作品が求められるようになりました。それらの作品の多くは、最後には、ちゃんと救いがあって癒される物語が多く、読者はそんな主人公に自分を重ねたんだと思います」(萩原さん)
※女性セブン2018年6月14日号