たとえば、先祖代々の墓や生前に購入した墓があるのに、その墓に入れないというケース。独身だったり、配偶者に先立たれたりして独居の場合、墓守を誰かに頼んでおかないと、本人の死後、入るべき墓の場所を誰も知らないという事態が起こるのだ。遺骨の引き取り手がいなければ、役所の無縁墓に移される。神奈川県横須賀市では、こうした無縁遺骨が2003年には11柱だったが、2014年には57柱、2015年も60柱と急増している。
墓の生前購入をめぐっては、こんなトラブルも。ある霊園では終活ブームに乗じて「継承者がいなくても入れる墓」を販売していた。当初は業績好調だったが、競争が激化するにつれて収益が悪化して倒産してしまった。経営者である寺は「販売会社に名義を貸していただけ」として、購入者に永代使用料などは返金されない状況だ。
◆死後を託せる人は誰か
そもそも墓には二つの機能がある。ひとつは遺骨を収蔵する場所としての機能。もうひとつは、残された人が死者と対峙して思いを馳せる場所としての機能だ。前者のあり方は墓石、納骨堂、散骨、手元供養など多様化している。後者の機能としては、住居に仏間がなくなって以降、墓が一定の機能を果たしてきた。
終活するとき多くの人は自分の骨をどこに収蔵するかという観点でしか考えておらず、二つ目の機能のことが抜け落ちている。そのため生前に購入した墓の場所を遺族が誰も知らないとか、遠方に墓を買ったため、死後、墓参の負担が増えて誰も行かなくなり、やがて無縁墓になってしまうといったことが起こる。
墓は、死んだ人とそこに遺骨を納めて霊を慰めようという人の双方がいてはじめて成り立つ。昨今の墓トラブルは、生きている間の“無縁化”が反映された結果、浮き彫りになったといえるものだ。