出発の日は、空港までの見送りはなかったけど、当時高校生だった息子は、私が出がけに「はいっ」って両手を広げたら、「ふんっ」と言いながらハグしてくれたの。「母ちゃん、頑張ってこい」という意味だったのかな? あッ、この話はダメ。泣いちゃう。
日が沈まない夏に、1年分の建築作業を終わらせなくちゃならないから、隊員総出。調理人もドクターも研究者も、トラックの荷台に乗って工事現場に連れていかれ、土木作業をするんです。
私が手伝ったのは風力発電所で、現場監督の指示に従い、木枠を組み、鉄筋を巻いたところに、生コンを流す。他にも建築作業は驚くほど多いんです。冬は冬で、雪上車で昭和基地から離れ、車の中で寝起きして屋外作業。冷凍庫で作業する人がしている手袋が手放せなくなりました。
屋外のトイレの便座の下は缶。用を足した人は、次の人のためにシートを1枚かけます。
「そんなところじゃ、出ない」なんて言っていたら、南極では生きていけません。
そんな環境で、人は何が食べたいかというと、結局はふつうの“がっつりご飯”なんですよね。朝はパンもご飯も食べられるブッフェ。昼はラーメンなどの麺類か、カツ丼、牛丼。夜は焼肉定食とかさばみそ煮定食とか。
でも、調理師はおいしい料理を出すのは当たり前で、さらに考慮しなければいけないのが、“ゴミを極限まで少なくする”こと。南極のゴミは、すべて乾燥させて燃やして、ドラム缶に詰めて日本に持ち帰らなくちゃならないんです。
だからビーフシチューのかたまり肉が残れば、フードプロセッサーにかけて、ミートソースに入れる。フルーツ缶詰は、凍らせて出し、汁はヨーグルトと混ぜてラッシーにしたり、カレーライスの風味づけにしたりして、なんとしてでも食べさせちゃう。
ラーメンの汁も張れないの。私が「生ゴミに出したくないから、飲み干せ」と言ったらパワハラになるから、リクエストに応じてスープの量を増減しました。
※女性セブン2018年7月5日号