NHKの料理番組『きょうの料理』は1957年に開始した。翌1958年にはテキスト版も誕生し、今年で60周年を迎えた。日本の食文化が劇的に移り変わった激動の60年。第一線で料理の変遷を見つめ続けてきた料理人たちは、今この時代に何を思うのか。食を通じて繋がる、あしたに届けたい珠玉のメッセージ。
料理研究家の小林まさみさん(48才)、同じく料理研究家でまさみさんの義父である小林まさるさん(85才)の2人が語る。
まさみ:初めての『きょうの料理』出演は今から11年前。平野レミさんのアシスタントを経て独立し、料理本を出版した3年後のことでした。小さな頃から見ていた大好きな番組で、一流の講師陣のかたがたと肩を並べるのが恐れ多くて、出演前から緊張してしまい…。
そんな時に声をかけてくれたのはやっぱりレミさん。「失敗していいから! その方があなたらしさが出るものよ。とにかく笑顔でいなさいね」。この言葉でスッと肩の荷が下りました。今も本番前に必ず思い出す言葉です。
まさる:本を出してたった3年で出演できたのは、運がよかったよな。おれもうれしくて、まさみちゃんの両親に電話で、「『きょうの料理』は、料理番組の紅白歌合戦のようなものなんですよ!」って、そのすごさを伝えたんだよ。
まさみ:今や、お義父さんも一緒に出演するようになったけれど、それもレミさんの応援が大きいね。「義理のお父さんが手伝うなんて、素敵すぎるわよ!」って、私たちの背中を押してくれたよね。
まさる:今は高齢化が進んで、高齢者の生き方が話題になっている。おれは樺太生まれで20才から38才まで炭鉱で石炭を掘っていた男。堅い仕事ばっかりしてきたから、まさかこの年になって、料理の仕事につくなんて思いもしなかったなぁ(笑い)。酒とつまみ、冷蔵庫にあるものでパパッと簡単にできる。そういうのがうまいんだよな。
まさみ:きょうの料理は、私にとって修業の場。収録は25分間ノンストップ。炒めている時間が長かったりすると、何も話すことがないと沈黙が続いてしまいます。でも、この時間がテキストで伝えきれないことを自分の言葉で話すチャンスだと思って、代替食品や正確な分量、おいしく作るポイントを少しでも届けるよう心掛けています。
※女性セブン2018年7月5日号