いわゆる「総合職」採用で入社した美奈さんだったが、入社後に経験したのは接客と簡単な出入金管理業務のみ。総合職の同期が、社内研修や試験をパスしながらキャリアアップを図っていくのを横目に、あくせく働かなくとも何となくでもカネは十分にある、そう考えて遊びまくった。バブル崩壊で、地道な積み重ねを怠ったツケをいまさら払うことになった美奈さんは、販売職専門の契約社員へ異動しなければならぬほど追い詰められていた現実を突き付けられ、思わずカッとなって辞めてしまったのだった。
それまで続けていた夜遊びやショッピングも、これで続けられなくなる。そう思った美奈さんだったが、現実には、将来への不安やストレスから、夜遊びの回数もショッピングの分量も以前にも増して増えた。不足分は夜のバイトで埋めていたが、カードローンの返済分が滞るようになると、ついには百貨店を辞め、時給換算でいくらか分の良い派遣社員となり、今も都内の建設会社に、事務員として勤務している
「結婚をあきらめたのは五年位前かな? 十数年務めた建設会社の正社員試験を受けたけど落ちちゃったから。親の介護もあって、これ以上仕事を増やせないし、唯一の趣味がコレ(ダンスイベント)」
イベント当日の美奈さんの格好は、薄黄色のセットアップスーツにエルメスのトートバッグ。足元は黒いエナメルのピンヒール。ヘアスタイルとメイクだけは派手だが今風で「金持ちのお姉さん」を彷彿とさせるが……。
「スーツはメルカリで買ったの(笑)。バッグは大黒屋、ピンヒールは実家にあったバブル当時のものを修理に出して……。コスメも使いかけの中古をメルカリで……。あなたさ、私の事見下してるでしょ? いいのよ、私がこれでいいんだから、別に誰に文句を言われる筋合いもないし……」
いつの間にか眉間にしわを寄せて、美奈さんの話を聞いていた筆者はギクリとしたが、実際に筆者は、美奈さんの置かれた状況を、そしてそれでもなお遊び続ける美奈さんを見て、ネガティブな印象を抱いていた。