この「世間の評価」が、坂田さんのような安定した立場の女性だけでなく、弱い立場にある女性も苦しめている現実がある。高校時代から「読者モデル」として雑誌に出演し、人気アパレルショップで働きながら大学に進学。大学在学中に出来ちゃった結婚を経て出産し、その後離婚を経験してシングルマザーになったマリナさん(仮名・二十代)もその一人だ。
「お互い若かったから、結婚や出産の意味をよく理解できていませんでした。離婚後、元夫が約束してくれた養育費や慰謝料の支払いは最初の半年ほどで滞り、音信不通になりました。共働きでしたが、私の収入だけでは満足な生活ができません。シングルマザー向けの婚活サイトを通じて知り合った男性とお付き合いを始めましたが、ギャンブル癖、そして薬物も使用していたことが発覚しました。すぐに働かなくなり、子供にも手を上げて……。
それでも両親を含めた周囲から“結婚するチャンスは二度とない”とか“片親の子供にする気か”とプレッシャーをかけられました。そんなに結婚が大切なのか、夫婦であることが、両親がいることが大切なのかと。子供や私が元気に暮らしていけるのならいい、と言ってくれた人はわずかでした」(マリナさん)
元ギャル雑誌編集者の筆者には、いわゆるシングルマザーの知人が多い。望まぬ妊娠や離婚、男性から受けたDV経験など、彼女たちは世間一般的な感覚よりも、こうした不幸に近い場所にいる傾向がある。彼女たちの苦しみを記事にするたび「ギャルだから仕方ないのでは」という、見当違いの反応をもらう。ギャルだろうと、出来ちゃった結婚だろうと、どんな境遇であろうと、子育てが難しくなるほど追い詰められる理由にはならない。
目黒の事件で逮捕された母親も、そんなシングルマザーの一人だった。そして、先に逮捕された、彼女と再婚して新しい家族とともに四国から上京した男は、まともには働いていなかったとみられている。
この母親を擁護するわけでは決してないが、彼女がなぜ、働きもせず遊ぶだけのような男とともにあることを選んだのかを考えてみる。若い母親が、どんなにダメな男でもいてほしいと、依存してしまっていたのかもしれない。母と父の二人になれば、子にも自分自身にもよい影響があると考えたのかもしれない。しかし、母親が子供と二人、何の心配もすることなく生活ができる環境がこの国にあれば、母親はダメな男でもパートナーでいてほしいと強く望むこともなかったろうし、女児の未来は続いていたはずなのだ。